有馬温泉は、関西エリアはもちろん、全国に知られる人気温泉地である。
京阪神にある主要都市からのアクセスは抜群で、古くから多くの人々に親しまれている。
しかし、最近になって、有馬温泉全体で、大きなダメージを被ったことがある。
それは、世界中で猛威をふるい、2009年に日本で初感染者を出した新型インフルエンザだ。
特に、兵庫県内では5月に最初の感染者が出て、その後は大阪府や滋賀県に広がっていった状況があり、有馬温泉も影響を受けた。
いわゆる風評被害というもので、旅館ホテルに感染者が出ていないにも関わらず、宿泊予約が次々とキャンセルされ、客が激減してしまったのである。
そんな時、「竹取亭円山」が打ち出した宿泊プランが、その名も「もうお手上げプラン」。
これは文字通り、“新型インフルエンザでお客さんが減って、もうお手上げ”という、宿側の心情をプラン名にしたもので、宿泊料金を大胆にも半額としたのだ。
このユニークなプランを、テレビ局のスタッフが発見し、NHKの全国放送のニュースで取り上げられたのだ。
宿に同情したのか、宿泊料金が半額だからかはわからないが、「竹取亭円山」は、すぐに普段通りの盛況ぶりに戻ったという。
このユニークなプランを考えだしたのは、二代目オーナーの下浦康伸さん。
昭和24年生まれの下浦社長は、35歳の時、先代の父からこの宿(当時は「円山荘」)を受け継いだ。
そして独自のユニークなアイデアを、次々と実行していった。
1991年(平成3年)に、毎朝の「お餅つき」を始めた。これは、今でも続く名物行事となった。
1993年(平成5年)には、色浴衣の貸し出しを始めた。最近ではどこの宿も行っている試みだが、いち早く取り入れている。
宿の中のことだけでなく、観光客の過ごし方についても考え、温泉街までの送迎を始めると、こちらも大好評を博す。
有馬の中でも、特にサービス精神旺盛な宿として、一気に人気宿の仲間入りを果たした。
しかし、1995年(平成7年)1月17日、この地域に悪夢が襲った。今も記憶に新しい、阪神・淡路大震災である。
不幸中の幸いで、宿の建物は無事にすんだ。
すると、下浦社長は、震災の後片付けに来る関係者、ボランティアスタッフ、マスコミ関係者など、タダ同然で宿泊してもらった。
「料金はいいから、有馬に来てくれた人に、灯りをともして欲しい・・・」との思いがあったのだ。
そして翌年の1996年(平成8年)、心機一転する気持ちで、屋号を「竹取亭円山」へと変更した。
これは、下浦社長の理想の女性像「かぐや姫」から拝借した名前だ。
同時に、御所車で女性客をお連れするサービスもスタート。
その後は、「女性客」を「かぐや姫」に見立て、もてなすための斬新なアイデアを打ち出している。
以降、主要ターゲットと掲げた女性のお客は、全体の7割を超えるほどにまでなった。
現在、宿の公式HPを見ると、下浦社長自ら更新している「竹取日記 BLOG」というのがある。
宿の情報から、有馬温泉のイベント、阪神タイガースに対するグチまで、語り口が面白いのだが、ほぼ毎日のように更新しているのにも脱帽する。
「もうお手上げプラン」も、このブログに載せたところ、NHKのスタッフが見てくれ、取材が来たらしい。
宿泊プランは、食事プラン以外にも、「お子様一名様無料プラン」、「タクシーセットプラン」、「かぐや姫たちの休日(レディースプラン)」、「0泊7時間ステイ夕食付きプラン」など、魅力的な物が多数用意してあった。(2009年10月現在)
中でも、「かぐや姫たちの休日」プランは、女性のお客限定で、なんと8つの特典が付く大人気プランだ。
特典1つ目は、ビタミンたっぷりのウェルカムフルーツをご用意。
2つ目は、プラン限定のアメニティーで、自然植物エキスと天然のエッセンシャルオイルを配合した、タイの高級スパブランド「THANN ナチュラル」のシャンプー、コンディショナー、シャワージェルをプレゼント。
3つ目は、竹取亭円山オリジナル巾着袋をプレゼント。
4つ目は、円山(本館)の客室にお泊りでも、お食事処を個室にできる。
5つ目は、「コラーゲンたっぷり美容豆乳鍋」を夕食時にご用意。
6つ目は、館内のアロマセラピー、フェイシャルエステ、カイロ、売店のご利用を10%引きで利用できるチケットのプレゼント。
7つ目は、翌朝の喫茶「かぐや姫」でモーニングコーヒーのチケットをプレゼント。
最後は、通常10:00のチェックアウトを、11:00に変更ができるというもの。
これほど特典の付いた、魅力的なレディースプランはなかなか見当たらないだろう。
宿泊プランは、時期によって新しいものを考えているようなので、こまめにチェックしていただきたい。
また、宿泊料金は、公式HPからの予約で最も安く設定していることを付け加えておく。
現在、下浦社長は、この宿のことだけでなく、有馬温泉旅館共同組合の副理事長と、観光協会の理事を兼任し、有馬全体の発展に努めている。
「有馬温泉の宿、一軒一軒がスーパーマーケットにはなれないし、ならなくていい。それぞれが専門店になれば、魅力的な街ができる」というオーナーは、周りの経営者のお手本にもなっているのだろう。
そして、息子の伸一さん(現在は専務)も、オーナーをお手本とする一人。
昭和55年に生まれた伸一さんは、専門学校を卒業後、1年間宿を手伝う。
その後、見識を広めようと、単身イギリスに留学する。
感性を強く刺激される日々の中で、伸一さんの心の片隅には、いつも家業のことがあった。
異文化に触れる中で、「温泉旅館は、衣食住そろった日本の文化の象徴」だということを再認識し、その素晴らしさを改めて感じていたという。
2005年(平成17年)に帰国。初心に帰ったような気持ちで、すぐに宿を手伝い始めた。現在、次期オーナーとして、日々切磋琢磨している。
2009年(平成21年)には、学生時代からの友人と結婚し、将来の女将も手に入れた。
「お客様が喜んでいらっしゃる姿を見るのが好き」という、下浦専務とこの宿の未来は明るい。
現在この宿は、温泉街の外れにあるというだけでなく、独自のポジションも築いている。
お客が気持ちよく過ごしていただくための充実したサービスと、記憶に残るような仕掛けが、この宿のリピーターを増殖させている気がしてくる。
だが、それだけが要因ではないだろう。
上品な会席料理は非常に評判がいい。
館内全体にひろがる、「竹取物語」と「温泉情緒」が融合した癒しの空間も、居心地のいい非日常が味わえる。
「金泉」と「銀泉」を同時に楽しめる貸切露天風呂を備えたり、個室食事処にテレビを用意するなど、他の旅館にないサービスが数多く用意されている。
老若男女問わず、誰もが楽しめるスペックがあるのだ。
有馬温泉には、創業から数百年続く老舗旅館がいくつかある。
「竹取亭円山」は、それらと比べれば、まだ新しい宿かもしれない。
しかし、この宿にはすでに多くのファン、常連客が付いているようだ。
その理由は、この宿の“優しさ”と“サービス精神”。
常に客目線で考え、いかに「竹取亭円山」を選んで良かった・・・とお客に思ってもらうことを真面目に考えているからこそ、この有馬温泉という数多くの旅館ホテルの中でもトップクラスの客室稼動率を誇っている。
日本の温泉旅館の良さを、改めて認識させてくれる宿と言えるだろう。(J/IZ)