元湯 環翠楼 - コラム~総括(2)-

この宿を語る際に、どうしても外せない女性がいる。
その方の名は、静寛院宮(せいかんいんのみや)様。
仁孝天皇の皇女和宮(かずのみや)様のことである。
皇女和宮様は、攘夷のため公武合体を推し進めていた幕末の孝明天皇の妹君で、14代将軍・徳川家茂(いえもち)に15歳で嫁いだ。
彼女には、すでに婚約者もいたにも関わらず、それを破談にされ幕府に嫁ぐことに相当な拒否感を持っていたらしい。
当時、孝明天皇の「江戸に嫁ぐのが嫌なら尼になれ」の一言で、渋々受諾したとの逸話もある。
皇女和宮様 ところが、同い年の家茂とは、その優しさに触れ、すぐに仲睦まじい関係になった。
しかし幕末の動乱はそれを許さず、家茂は丈夫とは言えない体で、激務に応じなければならなかった。
慶応2年(1866年)、家茂はついに第2次長州征伐の途上、大坂城で病に倒れ、そのまま息を引き取った。
21歳の若さであった。
家茂は遺体となって江戸に帰ってきたが、その後、和宮様のもとに、見事な京の西陣織の衣が送られてきた。
それは、家茂が、生前、和宮様への土産用に購入したものだった。
皇女和宮様
和宮様は、その衣を抱きしめ、号泣したという。
その時に、彼女が詠んだ歌がこれだ。
・・・うつせみの からおりごろも なにかせむ あやもにしきも きみありてこそ
(西陣織の衣も、なんの役に立つでしょう。綾や錦の美しい織模様も、あなたが生きておられればこそのものでしたのに)
実質、二人で楽しく過ごせたのは、たった2年あまりであった。
その後、和宮様は落飾(出家)し、静寛院宮を名乗った。
15代将軍に慶喜が就いたが、時代には逆らえなかった。 そして、大政奉還の時を迎えた。
天璋院篤姫 13代将軍・家定の正室であった天璋院(篤姫)とともに、朝廷や島津家に嘆願して、徳川家の救済と慶喜の助命に尽力した。 朝廷からは、上洛するように再三催促されたが、それでは徳川家が危ないと思い、江戸に留まった。 江戸に進軍してくる薩長を中心とした官軍の参謀・西郷隆盛に対しても、書状を送った。
天璋院篤姫
そして、徳川家の存続の約束を受け取り、江戸城無血開城を前にして大奥を立ち退いた。 こうやって、静寛院宮(和宮)様は、亡き家茂の遺志を継ぎ、徳川家を守り、天璋院(篤姫)や勝海舟とともに、江戸の街を戦火から救った最大の功労者となった。
和宮様が滞在された頃の「環翠楼」(元湯 中田暢平旅館)
~長崎大学附属図書館DBより そして、ようやく時代が平穏になりつつあった、明治10年(1877年)8月7日に、彼女は脚気を患い、この宿に湯治療養に赴いたのである。 脚気という病気は、この頃はまだ治療法が解明されておらず、国民病でもあった。
和宮様が滞在された頃の「環翠楼」(元湯 中田暢平旅館) ~長崎大学附属図書館DBより
一時、快方に向かい、宿に村の子供達を招き、菓子などふるまわれ村人と親交を深められたが、同年9月2日に、同宿にて身罷られた。 32歳という若さであった。
和宮様の遺品~高坏(たかつき)、菓子盆、棗(なつめ)など
和宮様の遺品~高坏(たかつき)、菓子盆、棗(なつめ)など
和宮様が亡くなって3年後の明治13年(1880)、天璋院も、和宮様終焉の地となった「元湯 中田暢平旅館」(環翠楼)に、どうしても行きたいと登楼している。 和宮様と同じ「早川」という客室に泊まり(諸説あり)、そばを流れる渓流・早川を眺めながら、面影を偲び号泣したという。
静寛院宮(和宮)様が散策された早川沿いの遊歩道(6月撮影)
静寛院宮(和宮)様が散策された早川沿いの遊歩道(6月撮影)
和宮様ゆかりの歌碑 生前、療養中の和宮様は、体調が良い時は、箱根の文人を集めて歌会を催していた。 その際、出された「行人過橋(こうじんかきょう)」の題で、宿の主・中田暢平が詠んだ短歌の碑が早川沿いの遊歩道横に建っている。 ・・・月影の かかるはしとも しらすして よをいとやすく ゆく人やたれ。
和宮様ゆかりの歌碑
和晩年の勝海舟 それは、当時の宿の主・中田暢平が、宮を追慕のあまり七回忌の折りに作ったもので、御逝去の部屋に近い真仙台の泉のほとりにある。 そして、その文字は、幕臣として和宮様、天璋院とともに徳川家の存続に力を尽くした勝海舟のもの。
晩年の勝海舟
ちなみに、歌になった橋とは、宿のそばの「玉の緒橋」の事。 早川に架けられたこの橋は、今でもこの宿を見守るように佇んでいる。
玉の緒橋からの外観と湯坂山(6月撮影)
玉の緒橋からの外観と湯坂山(6月撮影)
和宮様は、「家茂のそばに・・・」との遺言により、皇族の墓所ではなく、家茂と同じ徳川家の菩提寺である増上寺(東京都港区)に葬られた。 その棺の中には、和宮様が肌身離さず持ち歩いていた家茂の写真も入れられたという。 墓は、生前の二人のように、仲よく隣り合わせになっている。

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元湯 環翠楼 宿泊レポート


コラム
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おまけ レポート
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この宿のキーワード
江戸初期創業の塔ノ沢随一の老舗旅館
幕末、明治、大正時代の偉人たちの定宿
大正ロマン溢れる有形文化財の宿
古より伝わる美肌の湯、源泉かけ流し
旬の素材を吟味した懐石料理は客室で
こんな人はOK
技巧を凝らした日本建築に興味のある方
歴史に思いめぐらす事が出来る方
こんな人はNG
お客様は我儘し放題の神様だと思っている方
館内の備品類が貴重なものと認識していない方

元湯 環翠楼 基本情報

宿泊情報

IN 15:00
OUT 10:00
カード使用 可(VISA・マスターのみ)
部屋の眺望 川・山
部屋食 夕・朝 ※12名以上は宴会場
夕食の内容 懐石風料理
朝食の内容 日本食

宿泊料金 ※料金は1室2名様宿泊時の1名様分 (税込)

公式HPネット予約特典 【ベストレート(最低価格)保証】公式HPからの予約が一番お得な料金になっております。
お得なプラン 一泊朝食プラン、一泊夕食プラン、お一人様プラン、素泊りプラン、ベーシックプランなど、お得なプランの詳細は公式をチェック★
温泉内風呂付き客室 ¥34,870~ (客室名「清流」で1泊2食2名利用の場合の1名分料金)
※部屋の広さは本間9畳+次の間、広縁、洗面所、トイレ、掛け流し内風呂付き
通常客室 ¥27,720~ (1泊2食2名利用の場合の1名分料金)
※部屋の広さは本間8畳+次の間、広縁、洗面所、トイレ付き

施設情報

創業/改築 創業:1884年(明治17年)/改築:1996年(平成8年)
部屋数 全22室(別館は8室)
収容人数 75名(別館は19名)
貸切風呂 料金 :宿泊の場合 無料
利用時間 :内湯:24時間、露天:22:00~4:00 ※休前日の貸切可(内湯)
予約方法 :予約なし(先着順)
大浴場・他 男女別露天風呂あり(※男女別の入れ替え無し)男女別 「大」風呂あり(※男女別の入れ替え無し)岩盤浴(16:00~24:00)
駐車場 30台
ペット 不可
バリアフリー 非対応
エステ・マッサージ 英国製オーガニックトリートメントオイルを利用したアロマテラピー
※完全予約制
フルボディコース¥16,500/60分
セミボディコース¥13,200/40分
インターネット 全客室と応接間(2F)にてWi-Fi利用可
DVD なし
TVチャンネル 地上波
施設 宴会場・売店・バー・エステ・卓球コーナー(有料)
冷蔵庫のシステム 利用した分だけ申告(持ち込みのドリンクを入れるスペースあり/冷凍室不可)
冷蔵庫のドリンク:中瓶ビール
自動販売機 ジュース、アイスクリーム
売店 あり アイスクリーム
浴衣 バスタオル
タオル 石鹸
ボディソープ シャンプー
コンディショナー リンスinシャンプー
シャワーキャップ 歯ブラシ
ドライヤー ブラシ
くし カミソリ
綿棒 洗浄機付きトイレ

その他サービス・レンタル情報

レンタルサービス 加湿器・釣り(無料)15:00~17:00
車いす
お子様 お子様用の浴衣(90cm~)・専用料理「板長おまかせ日替わりメニュー」
外国語

おまけ情報

オススメお土産 寄せ木細工の箸
近くのコンビニ クルマで3分
携帯アンテナ ◎docomo ◎au ◎softbank

貸切利用

料金
利用時間
※食事付きプラン(要予約)
料金
食事の内容
設定日
受付時間
その他

男女別利用

料金
利用時間
その他

元湯 環翠楼 温泉情報

泉質 アルカリ性単純温泉(低張性・アルカリ性・高温泉)
源泉の温度 30℃、45℃、58℃の3本の源泉を混合して使用
湧出量 60リットル/分
水素イオン pH 8.9
溶存物質総量(ガスを除く) 527mg/kg
源泉の湧出状況 自家源泉で動力泉(ボーリングによってくみ上げる源泉) ※自家源泉の本数:3本
加水/循環ろ過 男女別大浴場、露天風呂、貸切風呂、客室露天風呂は、源泉100%かけ流し 部屋付きの温泉風呂は蛇口をひねると源泉が出てくる
加温 あり(季節によって加温)
消毒 あり(露天風呂のみ)
浴槽の湯の入替 1日1回
入浴剤 不使用
泉質別適応症(平成26年7月1日改定) 自律神経不安定症、不眠症、うつ状態
浴用の一般的適応症(平成26年7月1日改定) 筋肉若しくは関節の慢性的な痛みまたはこわばり
( 関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、 神経痛、五十肩、打撲、捻挫などの慢性期 )、
運動麻痺における筋肉のこわばり、冷え性、 末梢循環障害、胃腸機能の低下
( 胃がもたれる、腸にガスがたまるなど )、 軽症高血圧、 耐糖能異常 ( 糖尿病 )、
軽い高コレステロール血症、軽い喘息又は肺気腫、痔の痛み、自律神経不安定症、
ストレスによる諸症状 ( 睡眠障害、 うつ状態など )、病後回復期、疲労回復、健康増進
湯の色 無色透明
飲用 不可
飲用の適応症
におい/味 無味無臭

元湯 環翠楼 交通アクセス&周辺情報

交通アクセス

電車 JR小田原駅→小田急線にて箱根湯本駅下車、バス3分徒歩15分 または、箱根登山鉄道・塔ノ沢駅下車、徒歩5分
送迎 あり箱根湯本駅より送迎バスにて約5分(有料:一人200円/税込)
クルマ 【東京方面から】
東名・小田原厚木道路経由、小田原西ICをおりて約5分(4km)。
インターをおり、国道1号線で箱根湯本駅前を通り、函嶺洞門を抜け二つ目の橋を渡ると左側。駐車場は玄関前より20mほど先の道路両側。
【名古屋方面から】
東名、御殿場ICをおり、国道138号線にて箱根方面へ。
宮ノ下より国道より国道1号線にて大平台経由で約50分。箱根登山鉄道のガードを潜るとすぐ。塔ノ沢温泉場に入ると、道路両側に駐車場あり。玄関は20m先。

周辺情報

周辺観光スポット 阿弥陀寺・箱根ベゴニア園・箱根ガラスの森・彫刻の森美術館・ポーラ美術館・成川美術館
レクリエーション(観光農園、公園など)
スポーツ
スタッフより 五代目 梅村哲さんからのコメント
源泉かけ流しの温泉と館内にあふれる歴史を堪能してみてください。
取材日 2013/06/17
一部情報更新日 2025/09/18

※予約問合せの際は、必ず「貸切温泉どっとこむ」を見たと言ってください。

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この宿の記事制作者

温泉コム株式会社 代表取締役

30年以上前から、全国の温泉宿をまわり続け、「貸切風呂」の必要性を宿主に説いていた。 今でも、一年の半分を温泉宿で過ごす旅人でもある。 コラムニスト、カメラマン、ドローンパイロットの他に、ホームページのデザイン、コンサルタント業務もこなす。

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