「ニュー扇屋」の社長は、創業者でもある森山博司さん。
もともと、同じ福島県の飯坂温泉の某宿で支配人を務めていた森山さんは、あるきっかけでこの宿の経営を手がける事となる。
この宿の前身、当時の「扇屋」が経営不振に陥り、新たな経営者を探していたのだ。
そこで、旅館支配人の腕を買われて、森山さんが「扇屋」を引き継ぐこととなったのだ。
そして、家族を連れて、飯坂から土湯に移り住む。1971年(昭和46年)の事だった。
屋号もシンプルに、現在の「ニュー扇屋」とした。
もともと、森山社長のお父さんは問屋を経営していた。
そして、その会社を継ぎ経営者になる予定ではいたが、運悪く、会社が倒産し、旅館の支配人をしていたのだ。
その支配人のキャリアが、業種が変わって、問屋ではなく、旅館経営に役立つのだから、人生は面白いものだ。
当時13部屋だった旅館は、順調に経営をしていたが、温泉街の中心地という立地には恵まれていたが、逆に敷地は限られていて部屋を増やすことも出来ず、満室になってもこれ以上売り上げは上がらない。
次なる展開を模索していた時、森山社長は、自家源泉の温度に目をつけた。
現在、フロント奥にある源泉湧出口の温度は、約68℃。
温泉玉子を作る絶好の温度だったのだ。
それまで、お客さんに献立のひとつとして提供していたが、炭酸水素塩泉で仕上がる温泉玉子の味の良さを、お土産品として販売できないかと考えたのだ。
宿泊客にも評判で、それがクチコミとして広がり、自分の宿だけでなく、土湯温泉のお土産屋や、他の旅館でも販売されるようになる。
それを機に、旅館業の他に温泉玉子製造業を加え、株式会社森山を設立した。1979年(昭和54年)の事だった。

1987年(昭和62年)には、現在の本館の大改修を敢行した。
翌年の1988年(昭和63年)には、以前から宿を手伝っていた長女の雅代さん(昭和37年生まれ)が、盛吉さん(昭和34年生まれ/現・東北学院大学教授)と結婚し、若女将としてデビューした。
1995年(平成7年)には、他の旅館から社員寮を買い取り、待望の別館(南館)を誕生させる。
その6部屋は、ペット(犬)と泊まれる客室とした。
翌年の1996年(平成8年)、JR福島駅の西口にショッピングモール「ピボット(pivot)」がオープンすると、そこに「おんせんたまごの森山 ピボット店」を開店させた。
こちらも順調で、翌年1997年(平成9年)の大規模なリニューアルの費用に大分あてられたようだ。
この時には、館内の防火対策、「森の湯」、「山の湯」などが誕生した。
2003年(平成15年)には、本館の501号室「蘭」、401号室「欅」、301号室「桔梗」、別館の415号室「すみれ」をリニューアル。
また、大浴場の「華扇」、「彩雲」、展望露天風呂の「翔雲」も改装を施した。
翌年2004年(平成16年)には、本館の403号室「橘」、408号室「楊」も改装。
2006年(平成18年)になると、「森の湯」、「扇の湯」、「山の湯」の3つを改装し、貸切風呂とする。
2008年(平成20年)には、貸切風呂「月下老」を改修。
同時に、本館302号室「櫻」と、303号室「椿」もリニューアル。
さらに2009年(平成21年)、ペットが泊まれる別館の413号室「ゆり」、414号室「紅花」もリニューアル。
このように、常に改装を実施し、2010年現在、客室数15(うち別館6)に対して、大浴場×2、露天風呂×1、貸切露天風呂×2、貸切風呂×3の構成となり、いっそう個人旅行客向けの宿になった。
現在この宿は、昔ながらの湯治宿の雰囲気を残しながら、客室やサービス面など充実させ、快適な滞在を可能にしている。
客層は、コアな温泉ファンから、貸切風呂を楽しむご夫婦、若いカップルまで幅広い。
そして、リピーター率は非常に高い。
とあるお客は、13年間毎年来館し、およそ2ヶ月(!)の長期滞在をしている方もいるほど。

リーズナブルな料金も、リピーターの多い理由だろう。
公式HPを見ると、2名様でお泊りの宿泊料金は、8帖タイプで12,750円〜。
2室だけある6帖タイプであれば、2名様の場合10,650円〜だ。
期間限定のお得な宿泊プランでは、「平日はお得だね!ぽっきり10,000円プラン!(客室は8帖タイプ)」が用意されている。
その名の通り、お2人で宿泊したら2食付きで20,000円(!)という破格なもの。
これならば、連泊しても財布の負担は軽い。お子様連れのファミリーや、年金生活のご夫婦にもオススメだ。
若いご夫婦やカップルに人気なのは、「貸切露天と選べるお料理プラン」。
こちらは、貸切露天風呂の利用が無料になる上、メインの料理を「米沢牛のすき焼き」「福島牛の陶板焼」「特製ビーフシチュー」からセレクトできる美食プランなのだ。
他にも、愛犬家・愛猫家の方には「ペットと一緒プラン」が人気。
期間限定のお得なファミリープランなども不定期に用意されている。
また、公式HPからの直接予約特典として、自家源泉で作られた「森山のおんせんたまご」がいただける。
決してポイント狙いで、じゃらんネットなどの予約サイトから申し込まない方がいい。
直接予約が、絶対にお得なのだ。
公式HPを担当しているのは、若女将の森山雅代さん。
9歳からこの地で暮らす、生粋の“土湯っ子”である雅代さんは、土湯女将会の副会長という要職を兼務し、温泉地全体の盛り上げに尽力している。
飾らない人柄を慕ってくるリピーター客も多い。
若女将は、「土湯の神様からいただいている大地の恵みを、お客に還元することを基本理念としている」との事。
全ての温泉を、源泉かけ流しにすることや、自家源泉を使った温泉玉子作りも、この地に訪れたお客に"土湯の恵み"を最大限味わっていただくためなのだ。
もともと土湯は、地形的・気候的な理由から、山林とともに生きてきた歴史がある。
「こけし」作りや炭焼を生活の糧とし、山の恵みであるキノコや地竹、山菜などを採取し、生計を立てている人が大部分だった。
しかし現在では、そのような姿も見られなくなってしまった。
若女将は、こんな歴史を知ってか、古き良き土湯の文化を継承していく気概を持っているように窺える。

「ニュー扇屋」は、他の同業者の旅館から見れば、理想的な宿に見えるかもしれない。
それは、本来の旅館業と、もうひとつの柱となった温泉玉子の製造業の、2つの柱を持っているからだ。
旅館に泊まり、源泉かけ流しの良質の温泉を体感し、美味しい「温泉たまご」に出会う。
直接販売はもちろん、高速道路のサービスエリアでも大人気商品となっている「温泉たまご」は、インターネット販売でも好調な売り上げを記録しており、それをきっかけに「ニュー扇屋」の存在を知る。
この両輪が、うまく噛み合い、経営を順調に推移させているのだ。
森山社長の家族は、いつも謙虚に宿を営み、温泉たまごを製造している。
宿は、ある縁で経営をすることになり、温泉たまごは、その宿にあった理想的な源泉により製造できるようになった。
「人の縁で商売をしてきました」と、若女将は語ってくれたが、それと同時に、商売の神様が、森山一族をこの宿に導いてくれたような気もする。
宿は人で成り立ち、その人によって成長するか、ダメになるか決まる。
「ニュー扇屋」は、間違いなく成長しているし、進化している。
森山社長がこの宿を引き受けた時、「森山旅館」とせず、「扇屋」の名前をそのまま引き継いだ事を、この宿は感謝しているかのようでもある。
森山社長の人柄のおかげか、若女将以降の新しい世代にも、「何か目に見えない力」の導きによって、商売がうまくいき、結果お客様に満足させられるという好循環は、そのまま繋がっていくだろう。
この宿の人気の秘密はそのへんにあるような気がする。
私はこの宿を「幸運の宿」「良縁の宿」と呼びたい。
その恩恵をいただきに、この宿を利用するのもいい選択だろう。(J)