この宿の創業は1928年、昭和3年のこと。当時は「桑原館」という名称だった。
それを現オーナーの祖父にあたる持谷長一郎さんが買い取ったのが、戦後まもない1948年のこと。
もともと、長一郎さんは都の職員をしていた。しかし、母親が東京・高田馬場で旅館を経営し、繁盛させていたことを側で見ており、自らも商売に挑戦してみたくなったのかもしれない。
この頃は、猿ヶ京には、4軒の宿があったという。
前述のように、猿ヶ京温泉は、もともと2つの温泉地がいっしょになったところで、「湯島温泉」は、「桑原館(猿ヶ京ホテルの前身)」、「長生館」、「見晴館」(現在「まんてん星の湯」という日帰り入浴施設)の3軒、そして「笹の湯温泉」には「相生館」が1軒だけ営業していた。
この4軒はそれぞれ自家源泉を有していたのだが、相俣ダム建設時に、それぞれの源泉の代替として湯島に源泉を掘削し、4軒それぞれが4分の1ずつの所有権を持つことになる。
この源泉は「共有泉湯島」と命名され、4軒は「湯元泉協同組合」を設立。
温泉管理費を負担し、管理人を源泉近くに置き、管理運営に当ってきた。
現在は笹の湯の「相生館」が廃業してしまったので、3軒で管理しているというわけだ。
相俣ダム完成後、ほどなくして宿名を「猿ヶ京ホテル 桑原館」に改称。1958年(昭和33年)のことだ。
4年後の1962年(昭和37年)には、鉄筋コンクリート3階建て1棟(現在の別館・三秀閣)を建築し、200名の収容人数の大型旅館になった。
抜群のロケーションと、豊富な温泉で、国の高度成長とも重なり、順調に集客を伸ばしていった。
それからちょうど10年後の1972年(昭和47年)、6階建ての新館(客室数36)を建設。
エレベーター2基、空調完備、当時人気のあったボウリング場も備えた本格的な温泉リゾートして再スタート。
この時、屋号も「猿ヶ京ホテル」となっている。
翌1973年(昭和48年)、二代目社長に持谷順一郎さんが就任。
この頃より、現在の「猿ヶ京ホテル」が持つ個性が、徐々に味付けされるようになる。

1977年(昭和52年)、ボウリングブームが下火になったことを受けて、民謡酒場としてリニューアル。
民話の語りや津軽三味線のライブで、お客の心をつかんだ。
同年、絵馬堂を建立し、宿泊した各界の著名人に絵馬を描いていただき、奉納するようになった。
さらには、大露天風呂を完成させ、こちらも有力なセールスポイントとなる。
そして、月夜野焼猿ヶ京窯をオープンさせ、本格的に製造販売体制に入った。
この年だけで、当時としては斬新なサービスを、次々に打ち出したのだ。
1984年(昭和59年)には、三国路紀行文学館を建設。
この時は、三国路にゆかりのある文人たちの展示だったが、大女将の持谷靖子さんが徐々に与謝野晶子の魅力に魅かれ、後に与謝野晶子専門の文学館「椿山房」となった。
大女将は、群馬県教育委員会の会長も務めたことがあり、そんなところも与謝野晶子の生き様とリンクしている気がする。
そして、1989年(平成元年)遂に打ち出したのが、豆腐懐石。
この時、温泉旅館ながら自社豆腐工場を完成させた。
これにより、屋号も「豆腐懐石 猿ヶ京ホテル」と改めた。
そもそものきっかけは、昔、大女将が地元のお婆さんに民話を聞きに行っていた時のこと。飯どきになると、いつも美味しい手料理で振る舞ってくれたという。
特に、地元で取れた豆ににがりを混ぜて作っていた自家製の豆腐が、何度食べても絶品だったのだ。
大豆のほのかな甘みが残るこの豆腐の作り方を教わった大女将が、地元の食材に基づいた伝統の料理を伝えていくために、宿に豆腐工場を設けたのだった。
それからは、みなかみ町きっての温泉リゾートとして、確固たる地位を築いたようだ。
2008年(平成20年)には、大女将の息子である持谷明宏さん(昭和40年生)が三代目社長に就任。
小さい頃は、考古学に夢中だったという持谷社長は、前橋市の進学校を卒業し、東京の私立大学へ。
卒業後は、群馬銀行に入社した。
横浜支店に配属となった持谷社長は、この時運命的な出会いを果たす。
それが、生涯の伴侶になる美奈子さんだった。
秋田県鹿角(かずの)市出身の美奈子さんは、色白のいわゆる“秋田美人”。
この時の立場を言えば、持谷社長は新入社員。美奈子さんは、憧れの先輩だった。
しかし、持谷社長の猛アタック(?)が実り、3年後ゴールイン。
1992年(平成4年)、2人で宿に戻り、家業の手伝いを始めた。
女将の持谷美奈子さんは、「自分が宿の女将になっているイメージを全く持たないまま、結婚しました」と言う。
しかし今では、女性ならではの視点とアイデアで、この宿の人気に貢献している。
柔らかい印象の美奈子さんだが、姉さん女房でしっかりとした一面もあるようだ。
宿の公式HPを見ると、かなり詳しくコンテンツが分かれており、お二人の誠実な人柄が垣間見える。
数多く用意されている宿泊プランも、いくつか紹介させていただこう。
最もリーズナブルなものが、「1泊朝食プラン」。
夕食は付かないが、21時までのレイトチェックインができるので、その日仕事を終えてくる方も多いという。
2名1室7,000円〜。

冬期は、「ノルン水上スキー場『1日リフト券付』スキーパック」が好評。
ノルン水上スキー場は、首都圏最近(サイチカ)100分で到着。さらに関越・水上ICから3kmで着いてしまうという近さで、雪道の運転は短距離で済む。
駐車場は全日無料&24時間営業で、早朝や深夜のナイタースキーもできる。またリフトの運送能力が高く、待ち時間は少ないという。
予約制で、上越新幹線上毛高原駅から無料シャトルバスも運行している。
素泊まりなら、2名1室で8,700円〜。
ちなみに、スキー付きプランでは、苗場スキー場のリフト付きプランもあり。
小さな子どものいるファミリーに好評なのが、「女将の一押し!春休みファミリープラン」。
こちらの限定プランは、小学生以下の子どもは1名まで無料になる。
こういったお得なプランは、季節ごとに打ち出しているので、旅行を計画する時には細目にチェックしてみていただきたい。
女性同士の旅行では、「女子会プラン(浴衣プレゼント、12時チェックアウト)」、「レディースプラン(エステ40分無料)」などが人気だ。
期間限定で出される「きりたんぽプラン」は、美奈子さんの“ふるさとの味”とのことで、自信を持って提供しているという。
しかもこの宿は、公式HPで予約するのが一番お得になるように設定されている。
直接予約特典が下記3つも付くからだ。
@全宿泊プラン、他予約サイトより500円引き。(※露天風呂付き客室は1,000円引き、「訳ありプラン」は他サイトと同額)
Aウェルカムドリンクプレゼント。ビール(スタイニー)、緑茶、ポカリスエットから選択。(※子どもは食事付きの場合のみ)
Bビリヤードか卓球の1回無料券プレゼント
エージェントのポイントを利用するよりも、明らかにお得なので、予約は宿に直接した方が賢明だろう。
色々な角度から見てきたが、やはりこの宿のコストパフォーマンスの高さは、驚きに値する。
源泉かけ流しの猿ヶ京発祥の湯を、大きな露天風呂や貸切風呂で体感できる。
夕食の豆腐懐石はヘルシーで味もいい。
陶芸、エステ、ビリヤード、卓球、射的など、仲間と楽しめる充実した館内施設。赤谷湖が目の前のロケーション、自然環境の豊かさ、首都圏からのアクセスもいい・・・。
個性的な多くのサービスがありながら、宿泊料金はこちらが心配になるほどリーズナブルに抑えている。
のんびり一人旅でも、お二人で静かに過ごすのも、ファミリーや小グループでわいわい過ごすのもいい。
家族の記念日、会社の慰安旅行や、学生の卒業旅行、スキー旅行などにも対応している。
様々なシチュエーションでこの宿を選ぶことができる。
ある程度の規模がある宿ながら、敷居の高くない、アットホームな雰囲気が感じられるのも魅力的だ。
これも、持谷明宏社長、女将の美奈子さん、そして、大女将の靖子さんが助けあい、支え合いながら、経営にあたっていることが大きい。
“本物の温泉”と、魅力的な“おもてなし”が、この宿にはある。
そして、民話や食文化など、古くからあるものを大切にしながら、新しい挑戦も続けている。
この姿勢があれば、「猿ヶ京ホテル」の将来も明るい。
この温泉ホテルに似合う客層も幅広いし、パブリック施設も整っているおかげで、時間の使い方もバリエーションが豊富にあるように思える。
そのせいか、リピーター客が多いのも特徴だ。
まだ若いご夫婦の時代に初めてこのホテルを利用し、子供ができてからの家族旅行で訪れ、さらにはお祝い事や記念日に三世代旅行で利用する・・・こんな時代を超えてこのホテルを利用するのもいい。
その時代の思い出を残してくれるのは写真。
その写真を撮る機会は、やはり旅行に行く時が多いだろう。
そんな家族の歴史をこのホテルは刻んでくれるような気がする。
だからこそ、改装、リニューアルは宿泊施設にとっては、切っても切れないものだが、できる限り昔の雰囲気を感じさせる場所を残してほしいものだ。

ここ数年の日本経済の低迷による、観光業界の疲弊、過剰投資による老舗旅館などの宿泊施設の倒産など、暗いニュースをよく聞く。
しかし、このホテルは生き残っている。
それはお客様本位で、常にどんなことをすれば喜んでいただけるだろうかを真摯に考えているから。
いや、考えているのはどこの宿も同じ。
このホテルは独自の目線で、実践しているから強い。
「猿ヶ京ホテル」は間違いなく猿ヶ京温泉のリーダーであり、中心的存在。
常に客室の高稼働率を維持しなくてはならない宿である事も確かだ。
客室数60室というのは、一部の団体客、ツアー客も受け入れられる規模でもある。
一見この規模の宿は、静かに過ごしたいお二人様の旅行には敬遠されがちの風潮はあるが、この宿のもうひとつの魅力は、2人だけのいわゆる個人旅行客にも支持されているという事。
選択肢が多い充実した施設、源泉かけ流しの温泉、ヘルシーで個性あふれる料理など、今流行りの小規模高級旅館の寛ぎとは違ったアプローチが素晴らしい。
「温泉旅館」の居心地の良さと、「ホテル」の安心感を共に兼ね備えた「猿ヶ京ホテル」は、現代の日本人が「旅」というものに欲している何かを、必ず提供してくれるはずだ。(J/IZ)