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新潟県の中越地方の山間部、福島県の県境よりに「嵐渓荘」がある。
「越後長野温泉」というこの温泉地に、宿はここ一軒だけ。
そんな「嵐渓荘」には、想像以上にゲストを喜ばせてくれる仕掛けが用意されている。
まず、駐車場にクルマを停めて宿に歩いていくアプローチには小川が流れ、その先には水車が回っていた。
水車の手前を右に曲がると、なんとも趣き深い本館が目に入ってくる。
その佇まいはいかにも年期が入っているように見えるが、それもそのはず、大正末期に燕駅前に料亭として建てられたものを、昭和30年頃にこの地に移築したとのことだ。
その中にあるフロントまわりやロビーは、どこか懐かしい木のぬくもりを感じさせてくれる。
建物の横には清流・守門川が流れているが、そこにはかつて吊り橋がかかっていた。
しかし、2011年7月の大規模な水害により、流されてしまった。
そんな自然といつも正面から向き合うロケーションに「嵐渓荘」はあるのだ。
ただ、意外にも道路事情はいい。
北陸自動車道三条燕ICから国道289号経由でおよそ40分。
一般道もくねくねした山道を抜けていくようなところはないので、快適なドライブが楽しめるはずだ。
東京からであれば、関越自動車道を利用して4時間少々のアプローチだろう。
この宿の温泉は、「ナトリウム−塩化物冷鉱泉」。
極上の「薬泉」を所有していることで知られている。
「薬泉」と書いたのも、昭和初期の頃、東京・八丁堀の薬屋で火傷の薬として、実際に売られていたからだ。
そのお湯には、他では考えられないほど塩分の含有量が多く、殺菌作用としては群を抜いていたのであろう。
まさに肌にしみつくような感じで、塩分のせいか湯上がりから数分たってもポカポカする。
さらに驚くのは切り傷などの治りの早い事!あせもなどでぐずる赤ちゃんにもオススメの泉質だ。
そもそもこの自家源泉は、創業者・大竹保吉氏が大正時代の末期に掘り当てたもので、それをきっかけに1927年(昭和2年)に「嵐渓荘」はスタートしたのだ。
その極上の鉱泉(湧出温度が25℃未満だと鉱泉の表記となる)は、男女別大浴場「妙乃湯」「真木乃湯」の内風呂と露天風呂でじっくりと味わえる。
平成15年3月には待望の温泉塔「山乃湯」も完成し、時間帯によって貸切風呂にもなる「深湯」と「石湯」が誕生。
自然豊かな風景を眺めながらの露天風呂での温泉浴は、森林浴との相乗効果で最高の気分を味わえるはずだ。
ただ、この自家源泉はそれほど湯量が多いわけではない(21リットル/分)。
完全かけ流しにしたいところだが、その湯量の不足を補うために、湯舟から洗い場に流れるお湯以外のお湯を一部循環して再利用している。
ただし、いわゆる循環ろ過とは少し意味が違う。
一般的に行われている塩素消毒をしていないのだ。
循環ろ過装置を使うのは、前述のように湯温が低いため、加温の必要性もあるからだ。
2ヶ月ごとにレジオネラ菌検査を行っており、また浴槽の掃除時には塩素を使って消毒殺菌している。
要するに入浴中は塩素殺菌していないということだ。
これで温泉の有効成分も殺されずに済むわけである。その濃厚な上質のお湯はこういった努力で守られているのだ。
この宿の露天風呂には自然の山の中にある以上、いろんな虫が集まってくる時もある。
季節によりアブやカメムシなどが飛んでくる場合もある。
でも、それが本来当たり前の事であって、逆に、虫一匹飛んでこないほうが恐い。
一般的に、旅館はクレームが恐くて殺虫剤を散布しすぎているところが多い。
目くじらを立ててフロントに文句を言っている客にたまに出くわすが、なんとも情けなくなる。
それでは、なんでこんな山奥の旅館に来たの?と尋ねたくなる。「嵐渓荘」は自然と共生している宿ということを認識していただきたい。
客室は、本館フロントのある「緑風館」(大正末期築/バストイレなし)と平成4年に新築した「渓流館」、そして昭和30年代後半に造られた「りんどう館」(平成13年改築/バスなしトイレ付き)の3つの棟にそれぞれあるが、「渓流館」は今風のバストイレ付きの新しい和室であるが、他の客室も古き良き日本を思い出させてくれる味わい深い雰囲気がある。
常連客には古い客室の方が人気のようである。
夕食はお部屋か、専用個室でいただくこととなる。
取材時のメニュー(2007年9月)はこの宿でいうフルコース料理プランとなっており、ボリュームもなかなかのものだった。
食前酒は「嵐渓荘」特製の野草酒となっており、マタタビ酒、いかり草酒、山桃酒、アンニンゴ酒をブレンドしたもの。
前菜はみずなの実たまり漬け、舞茸の白和え、サザエ素焼き、エシャロットほお辛味噌、ほおずき卵黄味噌漬け、谷地あざみ油炒めに、これもこの宿特製の「鮎せんべい」もあった。
次にいただくのは鯉洗い清流仕立て。
泥臭さは少しも感じられない。
これを酢味噌でいただく。
さらに清流で獲れた天然の地鮎を塩焼きで。
焼き妻は自家製またたび塩漬けとの事。
次は地元、下田(しただ)で採れたぜんまいの一本煮。
この地方では短く切らないで一本で煮るのがごちそうと言われているらしい。
煮ものは、鳥吹き寄せ、里芋田楽、桜しめじ、紅葉麩、いんげん。
松茸土瓶蒸しには、鱧、銀杏、みつ葉が入っている。珍しい、あけびの若い芽巣ごもり。
苦味がまたいい。
揚げものは、海老利休揚げ、舞茸、栗おかき揚げ。
牛肉は栃木産で那智石で焼いていただく。
洋皿はプッチーニという種類のかわいい南瓜のグラタン。
お吸物には、萩団子と茶ソーメン。
食事に、山の宿に相応しい栗ご飯をいただく。
水菓子は自家製のココアムースにメロンと巨峰。
・・・このような豪華なメニューが並ぶが、これは少し多いかなと思う方には公式ホームページに記載されている通り、「控えめコース」というのも選択できる(ただし平日のみ)。
食事といっしょにいただくお酒も楽しみだ。
酒どころ新潟らしく銘酒が用意されている。
「越乃寒梅」「千年悠水」「純米大吟醸・生 雪中しぼり」「吟醸・五十嵐川」「八海山 純米吟醸」などがオススメだ。
朝食も同じように山里料理が並んだが、特に温泉粥が美味しかった。
やはりこの温泉の塩分は只者ではないと感じた。
また近所には、この温泉を使った「山塩ラーメン」なる評判のメニューを開発したところもあるそうだ(八木茶屋TEL:0256-47-2017)。
「嵐渓荘」にはお酒を飲めるラウンジも用意されている。
夕食後、お酒をもう少しいただきたい場合にいい。
意外だったのが、個室のカラオケ施設があるところ。
17室のこぢんまりした客室数と静けさが売りと思っていただけに少し驚いたが、これは都会から来る客向けではなく、おそらく地元客向けの施設なのだろう。
この宿は法事などの行事でもよく使われているらしく(取材時にも法事に出くわした)、これも地元の方々に支持されている証明でもあろう。
「嵐渓荘」の公式ホームページは四代目社長の大竹啓五さんが、自ら担当している。
宿の紹介も優しく丁寧に分かりやすくなっており、彼の人柄を反映しているようだ。
ブログも頻繁に更新している。
この、のどかな田舎の風景をいつまでも守っていただきたい。
ここで見た風景は遠い昔、夏休みに田舎のおばあちゃんの家に行った時の風景にダブってしまった。
思わずクレヨンで絵日記を描きたくなるような風景なのである。
今は流されてしまったが、吊り橋と水車って絵になるな〜っと思わず実感した。
実際、NHK開局50周年記念ドラマとして「川、いつか海へ」(平成15年12月22日放送)(脚本:三谷幸喜/出演:西田敏行・渡辺謙・小林聡美)のロケ地として、この「嵐渓荘」が使われた。
三谷脚本の設定で、渓流沿いの温泉宿というイメージにはピッタリきたのであろう。
ちなみにこの作品を見逃した方には宿泊時にDVDを貸し出ししているので、フロントに是非申し込むべし。
レンタルと言えば、貸し出し用の自転車もあるので、近隣の自然を散策するのもいい。
夏には、宿の前を流れる守門川で遊ぶ子供たちも見つけることができる。
岩魚や鮎が生息するこの清流で釣りを楽しむ客も多い(釣りレンタルセット1,000円)。
この宿にはお土産もユニークなものが揃っている。
人気の温泉水は1.8リットル300円で、ペットボトル入りで販売されている。
宿の炭焼窯で焼いた木炭は、セラミック効果でご飯が美味しく炊けたり、防臭剤としたり、入浴剤や消臭剤としての用途もある。
地元五十嵐米の新潟コシヒカリもいいだろう。
「嵐渓荘」は四季折々の楽しみ方ができる宿だ。
春は、新緑の中で湯浴みをする贅沢。
夏は、清流沿いのロケーションのおかげか、天然の蛍が乱舞する。
秋は絶景の紅葉を眺め、冬は一帯が銀世界に包まれていく。
2月から3月中旬にかけては、かまくら遊びもできる。
動物も、リスやムササビがよく出没するという。
宿の近くの奇岩・八木ヶ鼻では、絶滅したと思われていたハヤブサも、再び棲んでいるという。
都会に住むものは、こんな大自然に溶け込むように佇む湯宿を知っていたら、いつでもエスケープしたくなるのだろう。
私個人としては、ヒメサユリの花の咲く頃にもう一度訪ねてみたいものだ。(J)
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