|
約1200年前に坂上田村麻呂が発見したという開湯伝説もあり、約600年前に発見されたという説もある、岩手県・花巻温泉郷の台温泉は、湯治場の雰囲気も残る鄙びた山の温泉街となっている。
その温泉街の入口近くに「炭屋 台の湯」がある。
炭屋の名前どおり、黒い建物であるが、実は築200年を超えるという木造建築らしい。
エントランスに入ると、そこは一昔前にタイムスリップしたかのような感覚を覚える。
目の前に広がるのは畳敷きのロビー。そして2階への階段もやはり木製であった。
ここはたった10室のみの小さな温泉旅館。ロビーを含め、客室や大浴場へのアプローチの廊下もすべて畳敷きとなっている。ここではスリッパは要らない。素足で移動することになる。
こぢんまりとしている旅館だが、そのせいか何故か落ち着く。この静けさは、都会から来た人間にとっては何よりのご馳走だ。
この宿にはお風呂は2つしかない。特別な名前も付いていない。取りあえずここでは「大浴場」と「小浴場」にしておく。
この2つのお風呂は、“ひば”の木で造られた。ここの泉質は「含硫黄-ナトリウム-硫酸塩・硫化物泉」。アルカリ性の温泉で肌もツルツルになる。肌に良いのは間違いない。
特に「大浴場」は、泉温の高い源泉を高所から落として、湯滝となって湯舟に注がれている。大きな湯舟は10人ほどは同時に入れそうだ。源泉は、かけ流しとなっているが、衛生管理のため、循環ろ過装置を導入している。
もうひとつの「小浴場」は、2〜3人が入れるほどの広さだが、ここは循環ろ過装置を使っていない、“かけ流し”の温泉となっている。温泉の“質”にこだわりたいなら、こちらのお風呂がオススメ。
この2つのお風呂はチェックイン時の15:00から19:00までは男女別浴場となり、それ以降は@19:30〜 A20:15〜 B21:00〜 C21:45〜 D22:30〜 E23:15〜 ・・・と40分単位(5分インターバル)で貸切風呂となる。チェックイン時にフロントに希望時間を申し込むスタイルだ。もちろん利用料は無料。
24:00以降は予約なしで、空いていれば利用できるようになっている。朝6:00までが貸切時間だ。
朝6:00〜10:00が再び男女別浴場となる。
これは、この宿の客層が圧倒的に2〜3人単位の少人数客が多いという事で、貸切時間を設けたに違いない。カップル、ご夫婦にはありがたいサービスとも言えよう。
客室は10室。同じ意匠のものがなく、それぞれ、雰囲気のある和室となっているが、バス・トイレ付き、シャワールーム(浴槽なし)・トイレ付き、もしくはバスなしトイレ付きの部屋は全部で4室。つまり、トイレの付いている部屋は4室しかないということだ。
小さな宿とはいえ、トイレが部屋にないことに抵抗がある人は、予約の際、宿の係りにオーダーすべきであろう。
しかしながら、この宿には大事な人との旅行に欠かせない目に見えないアイテムが揃っているような気がする。
それは、パブリック施設がほとんどない宿ゆえだ。まず、食事も部屋食ということもあり、移動するとすればお風呂に行くときぐらい。だからこそ、お部屋で、二人でじっくりコミュニケーションを取るには最適な宿とも言える。いわゆる、“お篭り宿”としての役目をこなせるのだ。
こんなに静かで、落ち着ける宿はなかなか見つからない。例え、満室の状態でも、バカ騒ぎするような方はいないような気がする。まさに大人の隠れ宿的な匂いが・・・。
料理は若きオーナー料理長、藤原義和氏の手による創作和食会席。
取材時(2007年12月初旬)のメニューをここで紹介しよう。 この日は、2名1室お一人様宿泊費16,800円の料理だった。
まず、突出しは、三陸沖で獲れた烏賊の雲丹和え。
前菜は、季節の盛り合わせで、牡蠣(三陸)の甘露煮、もやしと水菜の中華風おひたし、白金豚(はっきんとん)の柚子焼胡椒焼。白金豚とは別名プラチナポークと呼ばれており、いわゆるブランド豚の一種。特殊な育て方と奥羽山脈の湧き水を釜石でとれたミネラル群たっぷりの鉱石で濾過した極上の活性水を飲ませている豚で、肉質が柔らかいのが特徴。なお、「白金豚」の名前の由来は地元出身の童話作家・宮澤賢治の「フラントン農学校の豚」の一節から引用したとか。
御吸椀は、帆立の潮仕立。中に、三陸で獲れたメカブ、きび粥が入る。
お造りは、平目(三陸)、鮪(塩釜)、小肌(三陸)の昆布〆。
家喜物(焼物)は、鰤(ぶり)の照焼と焼蓮根の重ね盛、焼ねぎ甘酢漬けが出た。
揚げ物は、どんこ(エジイソアイナメ)、ししとうの天ぷらを、どんこの肝醤油でいただく。どんこは三陸を中心に東北の太平洋側でよく獲れる魚で、11月〜2月が旬とされている。
煮物は、京芋の揚げ出し。伸し海老に八方餡かけ。美味しかった。
強肴は、牛すね肉の煮込み。ここで洋皿が出た。青梗菜(ちんげんさい)、エリンギ、にんじん、じゃがいもを添えて。この牛は、北上山地のブランド牛「真生牛」を使用している。北上のワッカ(清水)が育てたやさしい味わいが特徴。
鍋物は山の芋鍋。粘り気のある秋田の芋を団子状にしたものの他に、椎茸、白菜、春菊、エノキ、にんじん、豚肉(白金豚)、長ネギが入っていた。
ご飯は、岩手産のひとめぼれ。香の物は、自家製の三五八(さごはち)漬。
デザートは、料理長オリジナルの酒粕プリン。花巻の石鳥谷(いしどりや)の酒蔵の酒粕を使用。
一品一品が藤原料理長の気持ちの入ったもの。肉、魚、野菜とバランスがよく取れていて、とても味わい深いものであった。また、この宿を訪れたいと思わせるには充分な美味しさだった。
夕食の後は、バーでカクテルをいただくのもいい。小さいながらノスタルジックな雰囲気はこの宿に似合う。
そして、一休みしたら、貸切になったお風呂に再び湯浴みに行くのもいい。
とにかく、ここは、小さい宿ながらも、のんびり、ゆったり過ごせる空間がいっぱいある。
また、この宿には変わったサービスがある。「炭屋フォトプラン」といったものだが、これは結婚式がまだの方や、なんらかの理由があって結婚式を挙げられなかったカップル、ご夫婦向けの宿泊セットプランの事だ。
費用は全部で\126,000(税込み)。土・日は19,950円アップ。白無垢・色打掛け・紋付・着付け・ヘアメイク・化粧に、スナップ写真(100カット)と宿泊料金が含まれる。
盛岡市のブライダル・プロデュース会社、マリーリンク社が企画演出を担当。実はこの「炭屋」のオーナーは、このマリーリンク社の役員も兼務している関係で、このおトクなプランを展開できたのだ。
記念で写真を残したいカップルには、参考にしていただきたい情報だ。
もちろん、写真だけでなく、披露宴もこの宿では挙げられる。純和風のこの宿で白無垢姿の花嫁は似合いすぎるぐらいピッタリはまる。これから考えている方には是非参考にしていただきたい。
小さな山あいの宿ながらも、個性的なサービス、美味しい料理、閑静な環境、良質な温泉・・・と数々のアピールポイントを持っている「炭屋 台の湯」は、各マスコミも放ってはおけない。
TV取材も多く、最近では、西川きよしファミリー、国分太一、竹内都子もこの宿を訪れている。
お土産は、温泉玉子(5個600円)か、源泉で作った温泉石鹸(2個セットで1,050円)が人気だ。
この宿のチェックアウトは11時。美味しい朝食をいただいてから、またお風呂に入れる時間の余裕が嬉しい。
一晩この宿に泊まると、この宿の良さがカラダにしみ込んでくる。
大きな温泉旅館ばかりが温泉旅館ではない。日本の良さを実感させてくれる、こんな小さな宿を知っているかどうかで、人生というものが豊かになるのかもしれない。(J)
|