鎌倉時代に編纂された「吾妻鏡」にも記載され、古い歴史を持つ土湯温泉。
江戸時代には湯治場として栄え、会津街道の宿場町としても賑わいを見せていた。
しかし、現在奥土湯温泉と呼ばれているエリアは、自然そのままの姿であった。
そんな未開の地に林道が通ったのが、昭和34年(1959年)のことである。
またこの年、磐梯吾妻道路(通称:磐梯吾妻スカイライン)が開通する。
こちらは土湯峠付近から、吾妻の山並みを縫うように北へ走る平均標高1,350mの有料道路。
火山荒原で知られる浄土平や、吾妻小富士、鎌沼、桶沼、五色沼など、景観の素晴らしいスポットが多くあり、異国の地に来たかのような広大なパノラマが広がっている。
この風光明媚な磐梯吾妻スカイラインが出来てから、周辺の温泉地に多くの人が訪れるようになった。
そんな縁起のいい年に、「小滝温泉」は、当時「旅館 小滝」という名で創業した。
全室和室の落ち着いた造りや、山あいの静かな佇まいは、五十年たった今も変わっていない。
この抜群のロケーションで段々と人気が出てきたようだ。
平成13年(2001年)には、「弐番館」を新築し、露天風呂付き客室が10室誕生した。
本館の「壱番館」も一部改装し、宿名を「小滝温泉」と改め、現在に至っている。
現在この宿は、阿部義雄さん(昭和23年生まれ)が二代目として支えている。
「旅館 小滝」が創業した時、義雄さんは小学生だった。
その時、自分がこの宿を受け継いでいくのだと、幼心に決意したという。
学生生活を終えると、自然と宿を手伝うようになる。
その頃、料理は先代が担当だったが、阿部社長は、特に教わるわけでもなく、見様見真似で、料理の仕方を覚えたという。
35歳の頃には、二代目オーナー料理長となる。
以来25年以上をかけて、この山峡の地ならではのおもてなし料理を追及してきた。
余談だが、阿部社長は、その風貌から“土湯温泉のリンカーン”と呼ばれている。
長い髭は昭和50年ごろ、露天風呂の工事中、宿を一ヶ月休んだ時から今まで、30年以上も伸ばしているという(カットは時々している)。
外見だけでなく、その温かい人間性もリンカーンと共通しているのかも。
阿部社長の人間性が、宿のスタッフの一体感を生んでいるように思える。
公式HPを見ると、宿泊プランは料理を選ぶシステムとなっているようだ。
やはり、オススメは「囲炉裏風会席」。
自然豊かな福島県の山の幸、川の幸がテーブルいっぱいに広がる、滋味たっぷりのメニューである。
この田舎風のおもてなし料理は、非常に満足度が高い。
また、宿の会員登録(無料)をすれば限定のレディースプランが用意されている。
女性が2名以上であれば宿泊料金が、30%オフ、女性が4名以上であれば50%オフになるという、大変お得なプランである。利用しない手はないだろう。
現在、「小滝温泉」は、阿部社長、女将(奥さん)、若女将(長女)の家族三人を中心に、数名のスタッフで運営している。
愛猫のチロルとチョコも、招き猫と看板猫としての責務を全うしている。
(取材時の6月)若女将が、カップルをホタルのいる道まで案内している姿も印象的だった。
スタッフの人数が少ないので、システマチックな接客はできないが、要望があれば一生懸命応えようという姿勢が見られる。
もちろん、押し付けがましいものではなく、ほうっておいて欲しいお客には距離を置いた接客をする。
これは、「壱番館」と「弐番館」の客層の違いも考慮してのことだろう。
「小滝温泉」は、不思議な宿だ。
こんな山奥に、近代的なタワー型の露天風呂付き客室棟があると思えば、オーナー手作りの愛情のこもった山の料理が味わえる。
遠くまで連なる山々、生命の源泉とも言える清流、澄んだ美味しい空気・・・などの、大自然に包まれた環境にありながら、客室には、快適な設備が一通り揃っている。
「秘湯」と言ってもいいロケーションにありながら、このような居心地のいい環境にしてくれているのは、宿の皆さんの努力の賜物と考えていいだろう。
囲炉裏料理も、この宿泊料金から考えると、非常にコストパフォーマンスに優れている。
福島市から車で30分というアクセスで行ける、この桃源郷とも言える空間に、是非トリップすることをお勧めしたい。(J/IZ)