鎌倉時代から江戸時代まで、長きに渡って薩摩を根拠地とし、南九州を領有していた大名・島津家。
代々優れた当主を輩出し、「島津に暗君なし」と世に知らしめた。
第5代将軍・徳川綱吉の養女・竹姫が、島津継豊(つぐとよ)の正室となってから、将軍家との縁戚関係を深めていった。
2008年のNHK大河ドラマで有名になった「篤姫」こと天璋院(てんしょういん)も、島津家の一門で、第13代将軍・家定の御台所(正室)となった。
また、11代将軍家斉の正室も、島津家の広大院。天璋院が「篤姫」と名乗ったのは、この広大院の影響と言われている。
島津氏は、いわゆる外様大名でありながら、将軍家の御台所を2人も輩出しており、当時の影響力は非常に大きかった。
そんな江戸の時代、参勤交代の折りに島津家が使っていた上使屋(大名、奉行、上級武士が宿泊や休憩に使っていたところ)が嬉野にあった。
実は、その上使屋の子孫たちだが、現在それぞれ4軒の宿を経営している。
「茶心の宿 和楽園」もその4軒の内の一つなのだ。
宿の家紋も、丸に十字の島津氏の家紋をそのまま受け継いでいる。
創業は昭和49年(1974年)と、それほど古くはないが、格式というものを十二分に感じさせる。
地元の人が記念日や祝い事にこの宿をよく利用するのも、大いに頷けるのだ。
1987年(昭和62年)、下田高嘉さんが27歳の若さで二代目の社長に就任。
以来20年以上に渡ってこの宿を指揮している。
社長就任して翌年の1988年(昭和63年)には、純和風の「離れ 翠月」を新築。
嬉野温泉の中で、最も上質な設えの客室と言えるだろう。
1992年(平成4年)、お隣り長崎県佐世保市に、オランダの街並みを再現したテーマパーク「ハウステンボス」がオープン。
嬉野から車で50分(33km)ほどの場所に造られたため、「嬉野温泉」と「ハウステンボス」をセットにするお客も急増していった。
ハウステンボスの人気がピークとなった1997年(平成9年)には、お茶パックを使った日本初の露天“茶風呂”を始めた。
こちらは、下田社長と製茶園を経営する同級生が一緒に考えたものだったが、マスコミ・メディアから大変注目を集めた。
全国ネットの温泉番組で賞をもらうなど、一気に嬉野を代表する人気旅館となっていく。
その後は、団体客から個人客にシフトチェンジしていくため、露天風呂付き客室を次々と増やしていった。
そのどれもが意匠の異なる造りにしたのも、下田社長の戦略のひとつ。
アイデアマンである下田社長は、館内のリニューアルだけでなく、新しいサービスも次々に発案し、実行に移していく。
2009年には、嬉野名物の温泉湯とうふを使った「嬉野温泉とうふバーガー」を開発。
野菜をふんだんに使った健康志向のご当地バーガーは、夏季限定で宿の向かいにオープンするビアガーデンで販売し、大きな話題となった。
近年ではバリアフリーにも関心が深く、「バリアフリー教室in嬉野」を宿で開催している。
嬉野温泉の旅館従業員約30人に、高齢者や障害者の疑似体験を実施した。
これからの温泉旅館にとっては、非常に有意義な体験だったと思われる。
2010年1月には、実際にユニバーサルデザインの客室を2室誕生させた。
下田社長は、地元農家や旅館関係者が参加する町おこし団体「倶楽部八十八」の会長も務めている。
田植え体験をした後に、温泉で汗を流していただくという「お米づくり&美肌づくりの体験ツアー」を毎年実施している。
自ら経営する宿だけでなく、温泉地全体の活性につながるよう、日々忙しく飛び回っているのだ。
多忙な社長を支えるのは、奥さんで女将でもある美穂子さん。
3人の子どもを育てながら、毎日のように宿に立ち、凛とした着物姿で接客に勤しんでいる。
また、今も仲睦まじい下田社長と女将さんの雰囲気は、そのまま宿の居心地の良さに出ている。
広報なども担当する統括営業部長の田代さん、食事の時に応対してくれた仲居さんたち、宿の顔となるフロントスタッフまで、笑顔が絶えない温かい方が多かった。
伝統と格式を感じさせる宿ながら、肩肘をはらずに寛げるのだ。

この宿は、九州屈指の温泉地である嬉野でも、人気宿としての地位を築き上げてきた。
お茶風呂や夕食時のお茶すりのアイディア、個性溢れる客室露天風呂など、オリジナリティを感じさせるものが数多い。
もちろん、かけ流しの柔らかい嬉野の名湯は、言うまでもなく素晴らしい。
この宿の魅力は一言では語り尽くせないほど、多岐に富んでいる。
奇抜なアイデアばかりでは、お客にとってはありがた迷惑なもの。
しかし、この宿のバランス感覚というのは見事としか言うほかない。
その要因は、旅館業としてのベースとなる“もてなしの心=茶心”がしっかりと根付いているからだろう。
公式HPには、お得な宿泊プランが数多く用意されている。
平日プランでご紹介しよう。
公式HPのネット予約を見てみると、8帖の和室に一人で泊まって朝食付きで8,000円。
つまりビジネス利用で、この金額で宿泊できるのだ。
二人で泊まると一人7,500円となる。
カップルで朝寝坊したい方なら、レイトチェックアウト(12:00)のプランがオススメだ。
夕食は付くが、朝食は付かない。料金も一人12,000円と非常にリーズナブル(8〜10帖和室)。
これらのプラン(1泊朝食付き/1泊夕食付きレイトチェックアウト)を金曜日に使って、土曜日はスタンダードプランで予約して、賢い連泊をすることも可能だ。
連泊は疲れも充分に取れるし、精神的にもゆったりできる。
女性同士や、カップルでも楽しめるエステ付きプランもある。
色浴衣のレンタルや、貸切露天風呂も無料(通常50分2000円)になって、チェックアウトも11時になるなど特典いっぱいで18,500円。
面白いのは、夕食を近所の焼き鳥屋でいただき、朝食は宿でいただくもの。
メニューは、もつ鍋、生ビール、選べる焼鳥5本、温泉湯どうふサラダが付く。
浴衣を着て、街歩きをしてもらおうとの試みなのだ。
焼き鳥ではなく、お寿司というプランもある(料金は同じ)。
2名で宿泊なら一人9,500円(4名宿泊なら一人8,500円)と、これもお得だ。連泊の際の1日にこのプランを利用するのもいいだろう。
そして、ちょっと贅沢に「本館」の「山茶亭」にある露天風呂付き客室を利用するプラン。
平日なら2名1室で一人22,050円。5名で宿泊なら18,900円となる。
記念日に利用するなら「離れ 翠月」がある。
平日で2名1室一人30,000円〜との料金設定となっている。
このように、予算や旅行目的によって、幅広い選択肢があることがお分かりだろう。
洗練された和の情緒を持ち、高級感も漂わせながら、低予算で宿泊も可能ながら、一方で豪華な温泉旅行もできるという、「守備範囲」の広さが「和楽園」の魅力のひとつだ。
客室数54室と、ある程度の規模を持ちながら、小さな宿のような静けさ、落ち着きを感じさせてくれるのも、この宿ならでは。
充分な施設と、よく教育された熟練のスタッフによって寛げる空間を作り、ゲストを迎え入れてくれる。高齢者の客が、夜中に急病に倒れても、なんとかしてくれる人員体制も整っているようだ。
この「安心感」はなんとも心強い。
江戸時代、南方諸国との交易などで財をなし、国内屈指の「雄藩」を築いた薩摩・島津家。
その強大な国力があってこそ、江戸幕府を倒したのは言うまでも無い。
この宿の家紋が島津家であるように、この宿の底力は相当なもの。
これから下田社長が、どのような舵さばきで、この宿が進んでいくか非常に興味深い。
ただ確実に言えるのは、ここには日本が世界に誇る「おもてなし」の精神が息づいているということ。
これがあれば、今後も多くのゲストを楽しませ、いい思い出を提供してくれることだろう。(J/IZ)