ここ由布院で、シンボリックに佇む美峰・由布岳(1584m)。
街のどこに居ても見えるこの山は、地元の人に常に愛され続けている。
そして、この宿は、その眺望を客室風呂から見えることをテーマにしている。
“由布岳一望の宿”というキャッチコピーはダテではないことは、天候が悪くなければすぐに分かるはずだ。
客室の半露天風呂で湯浴みをしながら、そんな由布岳を眺めていると、つい時が経つのを忘れてしまう。
しかし、日が沈んでからも、この宿の景観の素晴らしさは続く。
徐々に街がライトアップされていき、いつしかキラキラとした夜景になるのだ。
煌めく星が散りばめられたような夜景と、満天の星空をかけて、「美星」という名を付けたとの事。
そして、それを「きらら」と読ませるのも、この宿らしくていい。
「きらら」という言葉は、本来、珪酸塩鉱物のひとつ、カリウムを主成分とする「雲母(うんも)」の事。光沢が強いので、国内では「きらら」と呼ばれてきた。
「美星=きらら」、なんともメルヘンチックな名前ではある。

だが、宿の中身は可愛らしい屋号とは関係なく、源泉かけ流しにこだわる、本格的な温泉宿であることが、特筆すべきことなのである。
しっかりとした基本があってこその、女性向けの宿作り・・・この宿の人気の要因がここにあるような気がする。
この宿を作ったのは、1972年(昭和47年)生まれの石川由香さん。
なんと、まだ30代の女性で、2人のお子さんを持つ主婦でもある方なのだ。
以前、道路公団の保養所だったこの建物を買い取り、大規模な改装工事を敢行し、「美星/きらら」としてオープンさせた手腕は、見事なまでに「お客様目線」に徹底して考え抜かれた設計に裏打ちされたもの。
そして「女性目線」「主婦目線」でも、宿作りを考えているのだろう。
2009年7月にオープンしたばかりのこの宿は、まさに星の如く、多くのリピーター客を誕生させたのである。
実は、彼女の運営する宿は、この宿だけではない。
なんと、2004年(平成16年)6月には、31歳で熊本の小田(おた)温泉で、「離れの旅館 花心」を創業。
2005年(平成17年)には、山川温泉で「旅館 四つ葉」を創業。
2008年(平成20年)に、大分県別府に「旅館 和み月」。
そして、2009年には、ここ「由布岳一望の宿 美星」というわけだ。
さらには、2011年(平成23年)には、同じ由布院でもう一軒オープンするというから、その勢いは止まらない。
なお、彼女の詳しいプロフィールは、「貸切温泉どっとこむ」の
「離れの旅館 花心」のエピローグで読んでいただきたい。
彼女の経営する「花心グループ」4軒の共通点は、すべて客室にかけ流しの温泉風呂があること。
そして、リーズナブルな宿泊料金が挙げられる。
「美星/きらら」の公式HPを見てみても、非常にお得感は強い。
8帖タイプと10帖タイプの露天風呂付き客室が、1泊2食付きで13,900円〜という価格設定にまず驚かされる。
夕食なしの1泊1食付きプランや素泊まりプランもあり、自由な形で滞在できるのもいい。
四国地方の方にオススメなのは、「宇和島運輸フェリー(大分⇔愛媛)タイアッププラン 」。
このプランにより、フェリーの料金が往復2割引となる。
クルマの方ならば、運転者と同乗者、乗用車の料金まで割引になるので、 かなりの割安になるのだ。
また、公式HPからの直接ネット予約特典として、チェックアウトが12時に延長となる。
全ての宿泊プランで適用されるので、予約は宿に直接した方がいいだろう。
石川社長は、大分と熊本に点在する複数の宿を駆け回りながら、自家農園の管理・収穫も行っている。この農園は、もともと由香さんのお母さんが作ったもの。
もともと娘が宿を経営することに反対していたらしいが、「旅館 四つ葉」が出来るころには、少しでも役に立てればと、トマトときゅうりから細々と作り始めたという。
今では50〜60種類の野菜や自家米を、オーナーとお母さんの二人だけで育てている。
自ら野菜などの食材を育てるということは、口で言うほど簡単なことではない。
天候に左右され、一日も油断できない仕事なのだ。
そして、それはお客に対する責任の表れでもある。
自分で野菜を育てることは、「食」の全責任を負うということ。
これは、理想論なのだが、それを実践しているということが、彼女の素晴らしい点なのだ。
このパワフルな女性オーナーの姿は、宿を取り仕切るスタッフたちに、いい影響を及ぼしていることは間違いない。

石川社長が、この4つ目の宿を作るテーマのひとつとして掲げたのは、“お子様に優しい宿”。
塩素消毒をしないかけ流しの肌に優しい温泉、可愛らしい調度品、和食に偏らない創作会席など・・・
また、子どもが騒いでも大丈夫なように、離れも2棟造った。しかも、この離れもお一人様15,900円というリーズナブルさ。
宿泊料金も、子どもの多い家族にとっては重要事項なのだ。
1泊15,000円前後で気軽に泊まれる、家族連れが利用しやすい料金設定。
しかも源泉かけ流しの露天風呂付き客室。
由布院の中でも、相場からすれば、かなり割安なのが分かる。
しかも、高級旅館並みに、空気清浄機、大型テレビ、DVDプレーヤーはじめ、最近話題の家電製品は一通り設置されている点も見逃せない。
「我慢をしなくてもいい宿」にするには、最低限、ここまでは必要だと考えた上での設備で、この料金というのは、まさに企業努力の賜物と言えるもの。
前述のように「お客様」「女性」「主婦」の3つの目線を持つことにより、マジメに考えると、このような宿になり、そしてお客が付いてくる。
さらには、影で彼女を支えるご主人(開業医)の力も見逃せない。
仕事に没頭するだけでは、サービス業は進化しない。
プライベートも充実して、最愛の人と、どんな宿に泊まりたいか・・・と考えるのも彼女にとってのマーケティング手法のひとつのような気がする。
いずれにせよ、彼女の創り上げる宿には、独特の温かさ、ぬくもりを感じる。
それは、それぞれの宿を自分の子供のように、愛しく感じているからに他ならないからだろう。(J)