|
筋湯温泉は大分県の温泉地ではあるが、熊本県の県境にも近い。また人気温泉地、由布院温泉と黒川温泉にも近いロケーションであるが、ここには大きな温泉地にはない、山の素朴で閑静な環境が揃っている。標高も900mを超えているので夏場でも涼しい。2006年10月30日に完成した「九重“夢”大吊橋」もクルマで数十分の距離にある。
そして共同浴場「うたせ湯」は有名だ。高所に設置した数本のパイプからかけ流しされてくる湯を、ほぐしたいカラダの部分にあてるのだ。その人気の「うたせ湯」に隣接しているのが「両筑屋」だ。
両筑屋の名前の由来は、筑前(今の福岡県西部)、筑後(今の福岡県南部)の人が泊まりに来るのが多かったので名付けられたとのこと。27軒ある(2007年9月現在)筋湯温泉のお宿の中で一番古くからあり、創業は慶長14年(1609年)というから、350年以上続く老舗宿なのである。
この宿には食事時間のルールがある。「夕食は夜6時、朝食は朝8時」と決められているのだ。「この宿のしきたりの中で寛げる方のみ寛いでください」というご主人は、恰幅が良く、ちょっと頑固オヤジ的な雰囲気。しかしながら、館内の至る所におやじギャクを散りばめている。フロント横に置かれた丸太のイスに書かれていたフレーズは「これはイヌではありません。イスです。」・・・など。これは全てご主人のアイデアらしい。頑固オヤジかと思いきやお茶目な一面もあるのだ。
この宿はたった9室の小さな宿。しかもご主人の個性が反映されている一種独特の色を持つ旅館となっている。本館は、フロント横の階段を2階に上っていく。樫(かし)、桐(きり)、櫻(さくら)と3部屋あり、トイレ・洗面所は共用、和室6帖+板間+床の間というシンプルな造りになっている。元々は湯治客専用の客室だったらしい。
本館より石畳の通路を奥に進むと宿泊棟が見えてくる。そこには各部屋にトイレ・洗面所が付いており、1階に楢(なら)、櫟(くぬぎ)、楓(かえで)、梗(ききょう)の4部屋、2階に楡(にれ)、欅(けやき)の2部屋がある。基本は6帖部屋だが、楓のみ7帖で少し大きくなっている。
この宿には男女別大浴場がない。4つの貸切風呂を使うわけである。しかも嬉しいことに、すべての湯舟は循環ろ過しない、源泉かけ流し方式を取っている。宿泊棟から人気の貸切露天風呂「蔵ん湯」に行くには、「竹垣の小道」を通り、坂道を少し登っていく。坂道は岩がごつごつして多少足場が悪い。しかしながらその野趣溢れる雰囲気はなかなかのものだ。この湯舟の泉質は「ナトリウム−塩化物泉」。鍵が空いている時に入っていいという形は、自由度があっていい。同じく「豆大福の湯」も「ナトリウム−塩化物泉」。その他の「檜湯」「岩湯」は「性単純温泉」となる。宿の目の前の共同浴場「うたせ湯」も含めると全部で5つの湯めぐりが楽しめるというわけだ。「露天 蔵ん湯」は切石の浴槽。「豆大福の湯」は、赤茶色の浴槽に小石がたくさん埋め込まれていて、見た目が正に豆大福。言われてみると納得だ。
共同浴場「うたせ湯」には専用のコインを入口の穴に入れて、回転のバーを押して中に館内に入る。コインは通常外にある自動販売機で300円(5歳以上)で購入して入口で入れるのだが、「両筑屋」宿泊客は無料となる。
食事は、囲炉裏のある食事処「炉」でいただく。取材時(2007年9月)にいただいた夕食は、たれと塩コショウでいただく「豊後牛とさつま地鶏の炭火焼」を中心としたご主人のこだわりある田舎料理。リピーターは「鍋」と「しゃぶしゃぶ」と3つの中から選ぶことができるとの事。まず最初にいただくのは、ナメコのもろ味和え、鮎のうるか、芥子しいたけにぜんまいの煮物。次にコンニャク、みょうが、きゅうりの酢の物。そして野菜の田舎煮。ここで熊本産の馬刺しをいただく。やはり美味い!茶碗蒸しがめずらしい。上に山芋が乗っており、混ぜて食べると、シャリシャリとした食感が新鮮だ。冬瓜の冷製スープもいい。鮎の塩焼にかわいい器に小さなサツマイモのコロッケも出た。米は熊本の菊地米。一番おいしくいただけるよう夕食の時間にちょうどいいタイミングで炊き上げているという。食事の時間に遅れないようにという理由はこのあたりにあるようだ。大分名物ダンゴ汁もよかった。デザートは抹茶アイスクリーム。
朝食も炊きたての菊地米が供される。おかずは、鮭、山芋とろろ、昆布のもろ味付け、玉子焼き、子持ちこんぶ、卵、牛乳、もやし、岩のりなど。食後のコーヒーはカップが選べる。
「両筑屋」は、一度客室にご案内した後は、それ以後部屋に入らないようにしているという徹底したプライバシー重視が貫かれているので、気兼ねなくゆっくりできる。家族的なサービスではなく、下手に飾らずお客にこびない姿勢は、むしろさっぱりとして好感がもてる。しかもこの宿泊料金で温泉と美味しい料理、そしてゆったりとした時間を過ごせるのだから、非常にコストパフォーマンスの優れた宿と言えるであろう。(J)
|