この宿を率いるのは、なんと昭和48年生まれのしずかさん。
地元でも評判の女性社長なのだ。
宿の創業は、昭和40年頃。今の別館のある土地で、宿を始めた。しずかさんは、2代目ということになる。
しずかさんは、親元を離れて、名古屋の大学を卒業後、しばらくの間、名古屋の旅行会社で3年間OL生活をする。
旅行会社を退社後、1年間「宅建」の勉強をしたのち、2002年に石川県の有名老舗旅館で1年間、仲居修行をする。ちょうどNHK大河ドラマの「利家とまつ」が放送された関係で、大変な賑わいの年だった。
そして、2003年に宿に入り、現在に至っている。
実は、この宿の創業には、悲しい過去が隠されていた。
しずかさんには、現在、針灸師をしている妹さんがいるが、以前はお姉さんもいたのだという。
彼女が幼い頃の出来事だが、実はお姉さんがいて、3歳の時、なんと交通事故で亡くなったというのだ。
その保険金の一部を使って、宿を造ったということは、しずかさんの両親からすれば「子供同然」の建物。
しずかさんにとっても、社長業というのは、面影も知らない、亡きお姉さんとの共同作業と感じているのかもしれない。それほどこのファミリーにとっては、大事な宿なのだ。
ところで、しずかさんは、2009年8月2日にめでたくご結婚されたという。
大学3年生の時、中国に留学した際、現地で現在のご主人・敦(あつし)さんと知り合ったのだ。
それからの長いお付き合いの末、ゴールインということだから、まことにめでたい限り。
新婚旅行は、お互いに中国語が堪能ということで、台湾に行かれるという。
これからは、お二人の若い力で、この宿をどんどん進化させていくことだろう。
その、代表のしずかさんの肌は、年齢を考えると(失礼)、非常にみずみずしい。
それは、この宿の温泉に原因があると思われる。
最近、美容研究家がよく話している、天然の保湿成分と言われるメタケイ酸が、驚くほどの含有量だからだ。
また温泉に含まれる硫黄分は、古い角質層に含まれているメラニンを落とす役目もあり、しみが薄くなり、肌が白くなるとも言われている。
そして、アルカリ性ということを考えれば、もはや「美肌の湯」ではなく、「美人の湯」と言っても過言ではないだろう。
ただ、この温泉の注意すべき点は湯温。
この宿の温泉の入り方の注意点は、「服を脱ぐ前に湯温の確認」なのだ。
小さな宿の特性上、従業員の数も少ないのもあるだろうが、ここは源泉温度95℃という高温の源泉かけ流し方式。お客がお風呂に入るたびに湯温の確認など不可能に近い。
また、熱いからといって、水道水を出しっぱなしにしてお風呂を出てしまう不届き者もたまにいるようだが、それは非常識極まりないこと。
特に夏場は、「熱すぎて入れない」という事は、この宿ではよくある事と認識すべきだろう。
なにしろ、ここは、温度調節を自動的にしてくれる、循環ろ過装置(温泉リサイクル装置)が付いているわけではなく、スタッフが、湯舟に注がれている源泉バルブで、湯量を絞りながら調節しているわけで、お客がそこをさわってしまうと、微妙な温度調節ができなくなるわけだ。
だからこそ、お風呂に「脱衣の前に湯温の確認を」との貼り紙があるのは、そのせいなのだ。
どうしても熱い場合は、水道水を入れて、必ず自分の手で止めることは忘れてはいけない。
成分の濃い温泉のため、多少の加水では、その効能は著しく落ちることはない。
塩素消毒しても、循環ろ過装置のついている、いつでも温度一定のリサイクル温泉がいいのか、つるつるすべすべの本物の温泉がいいかは、人によっての価値観によるものだが、せっかく別府まで来たのだから、やはり本物の温泉、自然のままの温泉に浸かるべきであろう。
これは、農薬を使ってカタチのきれいに整った野菜やお米が好きか、不恰好だけど、無農薬で育てた野菜やお米がいいか・・・との例えにもできる。
食物は口から体内に入り、温泉は皮膚から体内に浸透していくもの。どちらも、自然のままの方がカラダにいいに決まっているはずだ。
チェックインして、部屋に通されると、ほとんどのお客は客室の露天風呂を見に行く。
すると、湯舟いっぱいに溢れる源泉かけ流しのお湯を想像していたお客は、少し落胆する。
湯舟の半分よりちょっと上ぐらいの湯量だからだ。
しかし、これは何もスタッフが手を抜いているわけでは決してない。
源泉温度95℃という熱泉ということもあり、一気にお湯を入れれば、水を足さなくてはならなくなるからだ。
特に夏場では、お湯を絞って少量のお湯を少しずつ出して、少しでも冷まさせようと試みているのだ。
見た目を重視する宿であれば、チェックイン時には加水して、お湯を貯めておくだろう。
しかし、この宿の考え方は、違う。
できる限り源泉100%のお湯に入って欲しいとの一念から、このスタイルにしているのだ。
この愚直なまでの、“湯守”としての精神は、温泉ファンにとっては嬉しい。
最近思うに、予約サイトなどに掲載されているクチコミ情報(投稿)のレベルの低さにがっかりする。
この宿の例を書くと、「客室露天風呂から民家が見える」っていうおバカなクレームを書く人もいる。
ここは別府市の別府温泉の鉄輪温泉という、市街地に建つ温泉旅館。
その分、アクセスもいいし、コンビニも近くにある。
まさか、別府が大草原や、山奥の寒村というロケーションにあると思って来ている人が本当にいるのだろうか。それぐらいの疑念を持ってしまう。
ここは、日本一の湯量と、抜群の泉質を誇る別府温泉郷のひとつ、鉄輪温泉の湯宿。
お湯をメインで考えるなら、ここは最適な場所。
眺望重視で考えるなら、高原の一軒宿を探すしかない。
宿選びは、目的意識が必ず必要。
あれもこれもと欲張っても、パーフェクトな宿など存在しない。
「いやしの湯 豊山荘」の最適な客層は、ズバリ言うと、温泉にこだわりを持つ、仲睦まじい夫婦・カップルだろう。もうひとつ言えば、経済観念がしっかりしている方向きの宿だろう。
客室は、お世辞にも今風とは言わないが、貸切岩盤浴、客室露天風呂、貸切露天、家族湯、男女別大浴場・・・など、これだけ源泉かけ流しの本物の温泉があって、そして、海の幸、山の恵み満載の美味しい料理もあって、この宿泊料金で泊まれるということは、非常に価値があるという事を認識していただきたい。
このコストパフォーマンスの良さが、鉄輪温泉随一の人気を誇る所以でもあるのだ。
とにかく、温泉三昧と決めこんで、一日どっぶりとこの宿の温泉ワールドに浸かってみたらいかがだろう。
今まで行って来た温泉に、疑問符を持ってしまっても責任は負えないが・・・。(J)