南紀白浜温泉の歴史は古く、日本三古湯のひとつと言われている。日本三古湯とは、日本書紀、風土記などに書かれていることに基づいたもので、道後温泉(愛媛県)、有馬温泉(兵庫県)、そして白浜温泉(和歌山県)の3つとされている。
正式には白浜温泉と呼んでいるが、最近では、「白浜」という地名が全国に多いせいもあるだろうが、南紀白浜温泉と表記することが多くなってきた。
その南紀白浜温泉は、別府(大分)、草津(群馬)と同様に、源泉の湧出量が多いということでも知られている。
それは、数多くの共同浴場が存在していることで証明している。
「崎の湯」、「牟婁(むろ)の湯」、「しらすな」、「白良湯」、「松乃湯」などがその代表格であるが、特に「崎の湯」、「牟婁の湯」は白浜温泉の中でも最も古い歴史を持っている。
「崎の湯」は、太平洋を目の前に造られた野趣満点の露天風呂で、多くの観光客や地元の方々に愛されている。658年に斉明天皇と中大兄皇子が、江戸時代には当時、紀州藩主であった徳川吉宗も入湯した由緒ある湯でもある。
「牟婁の湯」は、白浜温泉発祥の湯とも言われ、このお湯こそ日本書紀や万葉集に登場するところだ。
「しらすな」は、白良浜(しららはま)の砂浜にある露天風呂で、夏は水着着用の男女混浴となり、冬は足湯となる。
「白良湯」は、白良浜に近い共同浴場で、海水浴帰りの客によく利用されている。
「松乃湯」は、景勝地である円月島を眺める事ができ、地元の方も多く利用する。
この他、「白浜温泉パーク草原の湯」など、貸切風呂の施設を持つ民間の日帰り温泉施設もあり、温泉選びには頭を悩ますほどだ。
白良浜は、南紀白浜温泉のシンボル的存在。ハワイ・オアフ島のワイキキビーチと姉妹浜提携をし、日本の渚100選にも選ばれた。特徴は、なんといっても白浜温泉の名前の由来ともなった、白い砂浜だ。
その美しさは、目をみはる。夏に多くの観光客が訪れるのも当然のことかもしれない。
本州で一番早い海開きということでも有名だ。例年ゴールデンウィークの5月初旬頃がその時期。
そんな白良浜から徒歩1分のロケーションにあるのが、ここ「白浜館」なのだ。
「白浜館」は、全客室数53室の中規模の温泉旅館ではあるが、豪華な特別室から、リーズナブルな客室まで幅広く用意されている。
露天風呂付き客室のある「本館」や「別館」、そしてリーズナブルな料金で宿泊できる「しらすな庭」と3棟構成となっている。
特に人気なのが露天風呂付き客室だ。梅干の一大生産地である紀州ならではあるが、実際に梅を漬けた樽を湯舟に改造したものを置いてある特別室が3部屋。
その他、バラエティに富んだ露天風呂を持った客室が11部屋。つまり合計14室が露天風呂付き客室となる。
また、変ったところではテラスに足湯が着いた、いわゆる足湯付き客室も誕生した。
ご予算がない方には別棟の「しらすな庭」が人気となっている。
このようにバラエティに富んだ客室が用意されているが、現在公式ホームページにて詳細に客室の特長や間取り、そして客層別にオススメ客室も案内しており、非常に分かりやすい。
これで、客室選びの悩みも少しは軽減されるかも。
「白浜館」のお風呂は、なんとすべて源泉かけ流し。客室露天風呂だけでなく、男女別の大浴場や露天風呂がすべてそうなのだ。循環ろ過をせずに、そのまま本物の温泉が湯舟に注がれている。
ただし、源泉温度が高いため、加水により温度調節は行っているが、逆に言えば、冬場に行けば泉温も下がるので、加水が減り、源泉率が高くなるということだ。
泉質の良さは言うまでもない。「含硫黄−ナトリウム−塩化物温泉」の湯の華が、大浴場の湯の注がれている石の壁にぎっしりと結晶としてこびりついている事からも分かる。
日本三古湯がいまだに生きていることが目で確かめられるということだ。
その男女別大浴場には、特別室にあった梅樽の湯舟も用意されており、こちらも是非入っていただきたい。
露天風呂からの眺めは周囲が壁で囲まれているため、まったく期待できないが、この良質の温泉を体感すれば、どうでもいいことにも思えてしまう。
ここで夕食のメニュー(2007年10月取材)をご紹介しよう。この献立は「日高川」という食事プランで、一般客室用のリーズナブルなメニューとなる。
本館、別館宿泊のお客様は基本的に部屋食。「しらすな庭」のお客様はレストランでの食事となる。
食前酒には地元紀州の梅が使われた南高梅酒。ほんのりとした甘みが食欲をそそる。
先付には銀杏豆腐。きれいな緑にウニとキャビアが添えられている。
前菜の五種盛りは、サーモンの押し寿司、さつまいもを裏ごしにして巾着で整えたもの、銀杏とムカゴの実、鮎の卵と白子をあえたもの、さらには、つめばい貝を酒蒸ししたものがならんでいた。
御造りは、鮪、鯛、烏賊、海老の四種。
台者はクエ鍋。和歌山県名物のこの魚は身に歯ごたえがあり、ぷりぷりとしていて魚好きにはたまらない一品。今回いただいたクエは近畿大学の水産研究所で食用として商品化されたものとのこと。
クエは、最近、ここ南紀白浜温泉で特に力を入れている食材で、もともと黒潮洗う紀伊水道の磯にいるものを「天然紀州本久絵」といい、なかなか獲ることができないため幻の魚と呼ばれていた。グロテスクな姿とは反対に、脂の乗った白身は、なんとも上品な味わい。ゼラチン質がたっぷりの皮やアラの部分は特にファンが多い。そのクエの養殖に成功し、安定供給することに可能になったわけだ。
蒸し物は海女鯛の菊花蒸し。お椀の下に甘鯛があり、梅蕎麦と山イモを蒸したものを載せ、上からあんかけがたっぷりとかけられている。
変り鉢は鮑、海老、ホワグラに鮑の肝ソースをかけたもの。フォアグラと肝のソースの口当たりが絶妙だ。
煮物には伊勢海老の具足煮。伊勢海老が豪快にいただける。
土瓶蒸しは銀杏、海老、松茸、さらにハモが入っていた。箸休めとなる上品なあじわい。
御飯ものには白浜館名物の健康シラス梅釜飯。火を付ける前に紀州産の梅を釜にいれるのを忘れずに。
火を付けて15分、さらに5分間充分に蒸らしてから蓋をあけると芳しい湯気が。おこげが食欲をそそる。
デザートには果物が出た。
白浜は魚の宝庫。ここで、この地で獲れる旬の魚をご紹介しよう。2〜5月はもちがつお。3〜4月はさくら鯛。5〜9月はむぎわらいさぎ。5〜8月はあわび。6〜7月はわたりがに。9〜2月は伊勢海老。10〜11月はもどりがつお。11〜2月はうつぼとなる。
館内には、様々な娯楽施設も用意してある。
カラオケボックスはもちろん、お酒をいただけるラウンジもあるが、オススメは「白浜館」の裏手にある「足湯横丁」だ。
これは、「白浜館」というよりも、白浜温泉の盛り上げのため企画されたスペースで、足湯にテーブルを設置してあり、無料で利用でき、そこから好きなお店に電話をして飲物や食べ物をオーダーするシステムとなる。
中には貸切の足湯テーブルもあり、さまざまな楽しみ方ができそうだ。
周辺観光にも事欠かない。前述の「崎の湯」などの外湯めぐりのほか、円月島、千畳敷、三段壁洞窟など景勝地も多い。また、家族連れには海中展望塔、パンダの双子の赤ちゃん「愛浜(あいひん)」「明浜(めいひん)」で話題を呼んだアドベンチャーワールドなど施設も豊富だ。
最近では、世界遺産に登録された熊野古道への観光の拠点としても、南紀白浜は注目されている。
そんな観光地としても、景勝地としても魅力溢れる場所なので、多くの著名人がこの宿を訪れている。TVドラマ「暴れん坊将軍」の徳川吉宗役のマツケンこと松平健は、最終シリーズのロケでこの宿に逗留した。その時は「海南荘」に宿泊されたとの事。その時、あのマツケンサンバをラウンジでスタッフと踊ったとの情報も聞いた。他にも、取材ではアホの坂田こと坂田利夫、女優の夏樹陽子もこの宿に来ている。
また、歌手の松山千春もこの宿の露天風呂付き客室に数回宿泊しているとの事。
「白浜館」の実際の創業は大正11年。そして平成8年に、現在のオーナーは、同じ温泉地で「ホテルシーモア」「ホテル天山閣海ゆぅ庭」「白浜温泉パーク草原の湯」などを経営する天山閣グループに替わった。
もともと白良浜に近いという立地に恵まれ、どちらかというと夏のシーズンが注目されがちだが、前述のように上質な温泉に恵まれているので、オールシーズン楽しめる宿と認識していただきたい。
現在のオーナーになってから、特別室や大浴場に梅樽の露天風呂を設置したり、足湯付きの客室を造ったりと少しずつ改装工事は行われているが、全体の老朽化は否めないのは確かだ。
しかしながら、その古さが逆にこの宿の魅力になっているようにも感じる。
本館、別館のような一種ノスタルジーを感じさせる雰囲気は、なかなか出せるものではない。本館・別館は、昔ながらの部屋食にこだわり、気のきいた仲居さんがお世話してくれる様は、まさに昭和の温泉宿そのままだ。
そんな懐かしさを漂わせる空間は、年配のリピーターをたくさん引き寄せる。最近は夏以外でも、若いカップル、ご夫婦なども露天風呂付き客室を目当てに訪れ、白浜温泉の中でも屈指の繁盛旅館となった。
今後、どのようなリニューアルをしていくか興味はあるが、できるだけこの雰囲気を壊さないでいただきたいものだ。(J)