檜の宿 水上山荘 ひのきのやど みなかみさんそう MINAKAMI_SANSO

1 2 3 4 次へ この宿の公式ページへ

標高は1,977mとさほど高い山ではないが、険しい岩壁と複雑な地形が印象的な、日本百名山のひとつ「谷川岳」。 双耳峰とも呼ばれ、トマの耳（1,963m）、オキの耳（1,977m）と、頂部が二峰に分かれている。 中央分水嶺（太平洋と日本海に水が分かれて流れる起点）ということもあり、変化の激しい天候は有名。 一ノ倉沢は、穂高岳、剱岳ともに、日本三大岩場と言われ、ロック・クライミングのメッカでもあり、また多くのアルピニストが挑む山だ。

宿から望む谷川岳（2011年10月1日撮影）

また、「霊峰」と崇められ、古くから信仰登山が盛んに行われていた事でも知られている。 山麓は、谷川岳天神平スキー場などもあり、シーズンにはスキーヤーで賑わう。 その登山基地として栄えた水上温泉郷・八湯（水上温泉・谷川温泉・うのせ温泉・湯檜曽温泉・向山温泉・宝川温泉・上の原温泉・湯の小屋温泉）のひとつ、谷川温泉。 旅館としては4軒しかない小さな温泉地。 その中で「檜の宿　水上山荘」は、温泉地の一番奥にある。 この偉大な山を、民家を見ずに、まるで額縁に納めてしまったかのような眺望が拝める、知る人ぞ知る山の中の温泉旅館なのである。 ちなみにこの宿からは頂上は見えない。 頂上らしきところは、俎板倉（まないたぐら）と言われるところ。 その奥に頂部である、トマの耳、オキの耳があるのだ。 ただ、「水上山荘」から見える谷川岳は実に美しい。 左右にバランスが取れて、まさに大自然が作った彫刻品のような佇まいだ。

展望ラウンジ「薄雪草」から見る谷川岳（2012年3月14日撮影）

このお宿がオープンしたのは1958年（昭和33年）のこと。 現存する木造の建物がその当時に建てられた部分にあたる。 創業者は、松本巌夫（いわお）さん。 宿を始める前は、国鉄（現・JR）の設計技師だった。 元々は福島県の人だったが、群馬県と新潟県の間を結ぶ「清水トンネル」の工事（1922年着工、1931年9月1日開通）のため、群馬県水上町に長期滞在していた。 その時、知り合ったのが、後に女将さんとなる、典子さん。 典子さんは、水上温泉の老舗旅館「水上館」の長女だった。 トンネル工事が終わり、福島に帰るところ、典子さんと結婚してこの地に残った。 国鉄を辞める事になり、義父が経営する「水上館」関連のタクシー会社の社長におさまったが、独立志向が強く、自ら宿経営を考えていた。 そんな時、国鉄の保養所だった建物が売りに出されていた。 もともとは、「紅葉館（こうようかん）」という温泉旅館だったが、その後、国鉄が買い取る事となった建物だった。 という事は、現存する木造のある部分は、戦前の昭和初期に建物と推測される。 わずか10室ほどの小さな宿だったが、「水上山荘」と名付け、松本巌夫さんと典子さんは、新たに旅館業を始める事となった。 1958年（昭和33年）・・・巌夫さんが国鉄を辞めて2年後の事である。 それからは、小さいながらも、谷川岳の登山口というよりも、山から下りてきた人たちが温泉を浸かりにきた。 登山客だけでなく、山好きな人たちが常連客となっていった。

谷川岳を望む露天風呂（男湯）・・・2011年10月1日撮影

時が過ぎて22年後、巌夫さんの長男、現社長の松本英也さん（昭和8年生まれ）が、2代目として宿に戻ったのは、1980年（昭和55年）のこと。 年齢の事もあり、巌夫さんの体調がすぐれなくなったからだ。 英也さんは47歳の時だった。 それまでは、宿を継ぐ意思は無く、東京の日本橋にある会社の営業マンとして働いていたので、突然、異業種の世界へ飛び込んだようなものだった。

1 2 3 4 次へ ページの上に戻る