海岸すれすれまで山がせり出し、沖合いの小島や荒々しいコーストラインが印象的な西伊豆。駿河湾越しに仰ぐ富士山はさすがに雄大で、海岸沿いに南北に走る国道136号線は人気のドライブコースとなっている。この、山に寄り添うように曲がりくねった道と、この西伊豆海岸特有の風光明媚な光景を楽しみながらドライブしていると、かつて金山の街として栄えた土肥の街に至る。
この道路は土肥の街中で折れ、坂を上り山道へと突入するが、分岐する県道17号線はそのまま海岸線を北上し、戸田、三津浜を経て沼津市内まで到達する。現在では西伊豆有数の温泉地として知られる土肥を抜けるとすぐに、展望台と駐車場が目に入る。ここは夕陽の名所として知られる「旅人岬」だ。
「旅人岬」は1998年、土肥町に誕生した新しい観光名所。名付け親は直木賞作家の笹倉明氏で、彼の小説「旅人岬」にこの地のことが描かれたことが由来だという。道路脇に設けられた無料の駐車場と展望台はドライブの休憩地としても人気があり、その入りやすさも手伝って多くの人が行き交う。ここからは手前の山に隠れて富士山を見ることこそできないが、目の前に広がるのは碧い海と空、群れをなして飛ぶ海鳥、そして空を茜色に染め上げる夕陽という壮大なパノラマ。これをそのまま楽しめるのが、目と鼻の先にある「プライベートビーチガーデン 星のなぎさ」である。
海と空の青に栄える白壁と、なめらかな曲線を描くテラスが南ヨーロッパを思わせる明るい外観。ここはその爽快なイメージからペンションを思わせるが、全室に温泉の出る露天風呂が付く温泉宿である。
全室ともにオーシャンビューの和洋室で、ダブルベッドないしツインベッドが部屋の手前に置かれ、仕切りなしで畳敷きの和室がその奥に広がりゆったりとしている。和室部分の奥にテラスが設けられており、ここに露天風呂が設置されている。2階の5室には、それぞれ部屋によって異なる色の信楽焼湯舟、3階の5室は檜湯舟。テラスの塀があるため、この湯舟に浸かりながら海を見ることは難しいが、それでも頬に受ける海風は心地よく、目をつぶり、耳を澄ませば波の音が聞こえる。ここから眺める夕陽はやはり格別で、夕立のあった取材時(2008年3月)には、洗われた空を茜色に染め上げる絶景が運良く見られた。
室内の設備は、トイレ付のユニットバス、そしてテレビと冷蔵庫がある。決して豪華さがあるわけではないが、アメニティーなども含め必要なものは全て揃っているので不便さを感じることはないだろう。寒い季節や雨の時などにこのユニットバスは役に立つ。冷蔵庫はミネラルウォーターの入った瓶があるのみで、あとは基本的に持ち込みできるようになっている。なお、1階には自動販売機が設置されている。
食事は1階の「カルフールカフェ」でいただく。この宿の佇まいにぴったりの和洋折衷料理で、見た目も華やかなプレートが並ぶ。夕食は18時、もしくは18時半から。取材時のメニューは以下のとおり。
食前酒はオリジナルカクテル。この日のカクテルは、沈む夕日をイメージした白ワインベースにザクロシロップを落とした「伊豆の踊り子」。土肥名産の心太(ところてん)のカリカリじゃこの和風サラダ、オードブルにはベトナム風の蟹と生ハムの生春巻きと、目にも鮮やかなプレートが出される。
お造りは駿河湾直送の鮮魚盛りを。イカ、鮪、アジのたたき、甘えび、サザエ、ヒラメが豪勢に盛り付けられている。
逸品として鰆のオーブン焼。マヨネーズのようなソースは自家製のオニオンクリーミーソース。ハーブ類は自家農園で採れたものを使用するというこだわりがある。
メインディッシュには伊豆地鶏のトマトマスタードソースがけ。ちりばめられた星型のニンジンがかわいらしい。
ここで、ご飯はおひつに入れて出される。ご飯は釜で焚かれた伊豆名産の「富士の舞」。伊豆味噌がとかれた味噌汁には、地ものの海苔が入れられて香りも高い。土産としても売られている青岩海苔が添えられる。これまでの食事とは明らかにノリが異なるが、地ものの美味しいお米を何度でも気兼ねすることなくおかわりでき、かつ温かいままいただけるのはありがたい。
デザートは苺の抹茶ショートケーキ。静岡いちごと静岡抹茶の組み合わせだ。添えられたハートのチョコレートがラブリーな雰囲気。デザート作りも得意とする清水料理長の渾身の作である。
朝食は洋食プレート。スクランブルエッグ、ハッシュドポテト、ソーセージに自家農園栽培の野菜やハーブを使ったサラダが添えられている。フルーツヨーグルトとクラムチャウダー、パン数種とコーヒーもしくは紅茶が付く。ここで使用されている、タイム、レモングラス、ミント、ローズマリーなどのハーブ類は自家農園で栽培されているもので、また姉妹館「枇杷」裏手の山に生えるみかんや枇杷なども季節によっては出されるとのこと。
館内に売店などはないが、お土産品はロビーにいくつか置かれている。西伊豆特産の品などが並ぶが、中でもオススメなのは「イタリアンピーチティー」(¥1,500)。夕食にも出された地ものの岩海苔も人気あるお土産だそう。
また、エステも人気だ。出張で客室まで来て施術してくれるので、気兼ねすることなく存分にデトックスしていただきたい。フェイシャルトリートメントではお肌に優しい100%ピュアオイルを使用。ボディートリートメントでは好みにより、数種類のアロマオイル又は ピュアオイルから選ぶことができる。コースも豊富で、足浴(30分/¥5,000)、フェイシャル(30分/¥5,000)、ヘッドマッサージ(30分/¥4,500)という短時間でできる手軽なものから、「癒しの刻」コース(ボディー+フェイシャル・約90分¥22,000)というものまで用意されている。詳細は公式ホームページにてご確認いただいた上、事前に予約することをオススメする。
1階「Carrefour Cafe」は、11時から15時のランチタイムにはイタリアンレストランとしても営業しており、ドライブの休憩がてら利用する客でにぎわう。もしこの景色に惹かれたら、まずはランチで利用し、次に来る機会の宿泊予約をするのもいいかもしれない。
落ちる夕陽を見ながら客室で温泉に浸かることができる、そんなロマンチックなロケーションから連想されるのは、若いカップル同士で仲良く泊まりにいくところというイメージ。だが、取材時には幅広い年齢層の宿泊客が見られた。若いカップル、子育て世代はもちろんのこと、高齢の方を連れたファミリーや、年配のご夫婦などもである。
年配の方々といえば、リーズナブルな旅館の部屋に温泉の出る露天風呂があるなど、考えられなかった時代の温泉旅行を楽しんできた世代である。そんな彼らも年を重ね、子どもや孫と旅行に来るようになった。子ども側からすれば、自分たちも気軽に楽しく宿泊できるというだけでなく、部屋に露天風呂、海に沈む綺麗な夕日・・・そんな非日常的な、サプライズ的要素があるわけである。親孝行としてはまたとない演出ではないだろうか。こんなところからも、平日でも満室になることが多いという、この宿の人気の要因が見えるような気がする。ただし、館内にはエレベーターはなく、2・3階にある客室へは階段を利用する事になるのでご注意を。
「プライベートビーチガーデン 星のなぎさ」は外観からもわかるように、地中海に面したプチホテルのようなあたたかさ、アットホームさがある。それでいて馴れ馴れしくない、欲しいと思ったときに欲しいサービスをしてくれるという、適度な距離感をわきまえたスタッフによる明るく丁寧な応対には清々しさを感じる。女将による挨拶、部屋に入ってくる仲居さんなどを苦手とする人々にとっては、こういう都会的な接客は大変ありがたいものだろう。
旅人岬のサンセットは、『これまで夕陽は幾度も見てきたけれど、いまほどそれを美しいと感じたことはない。』と上記小説に描かれる。それほどの絶景を正面に見る圧倒的なロケーション、そして全室にある眺望豊かな温泉露天風呂と貸切露天風呂、これらハード面での好条件は、ここで働くスタッフによる、さりげないおもてなしの心が通うことでより生かされる。ここのファンになり、何度も訪れるリピーターがいるということが、それを証明しているような気がする。(eb)